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社会保障・税一体改革について【京都府医師会理事:松井道宣】
1.はじめに

 9月2日,民主党として3番目となる野田内閣が誕生した。2年前に歴史的政権交代を果たした民主党は,鳩山政権で「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げ,公共事業から社会保障へと国の政策が方向転換されることが期待されたが,従来から指摘されていたそのための財源の確保をどうするのかという課題に対して,事業仕分けでは一定の評価を得たものの特別会計の見直しは不十分であり,明らかな解決策も示されないまま今日に至っている。結果的に裏付けのない施策をマニフェストに並べ立て政権についた民主党であるが,もはや国民の多くはマニフェストの実現には期待していない。東日本大震災以降に行われた世論調査では,民主党支持層でさえ87%が,マニフェストの見直しを求めている。野党自民党は,相変わらず解散総選挙を求めているが,国民を見損なってはいけない。少子高齢化,人口減少社会,さらに東日本大震災という未曽有の国難に直面するわが国で,はっきりとした理念も示せず,相手を中傷するしかできない政党に未来を託すことはできないのである。わが国の最大の不幸は,長きにわたる自民党一党支配が,政治家をしっかりとした理念を持って国を導こうという人から地位と名誉と利権を求める人へと貶めてしまったことであるのかもしれない。

 さて,現在わが国の直面する問題とは,少子高齢化と財政の悪化,そして競争力の低下に要約することができる。歴史上,国の成長には人口の増加が必須条件であり,人口が減ってなお持続的に経済成長を遂げた国は過去にない。わが国の出生率は1.39(2010 年)であり,2005 年に12,777 万人であった人口が,2055 年には8,993 万人になるという衝撃的な予測がなされている(国立社会保障・人口問題研究所:平成18 年推計)。また,高齢化はさらに深刻であり,現在3名弱の労働人口(20 歳~ 65 歳)で一人の高齢者(65 歳以上)を支えているが,2025 年になると1.3 名で一人を支える構造になる。財政の悪化については,一般会計でみると,2011 年度の当初予算の規模は92 兆円であるが,税収はわずか40 兆円しかない。つまり52 兆円の赤字である。最大支出項目である社会保障関係費は28 兆円,地方交付税交付金は16 兆円でこれだけでも税収を上回る。そして,その上に今までまさに無策に積み重ねてきた1,000 兆円に上るという債務がある。さらに,東日本大震災に対処するための補正予算が数次に渡り必要となった。財政健全化のための方策としてよく引き合いに出される2つのロジック,つまり「景気が良くなれば税収も増えるので,まず,景気対策を行うべきである」と「増税の前に政府や公務員のリストラ等やるべきことはいくらでもある」では,もはや解決できないレベルにあることは明らかである。

 今回の「社会保障・税一体改革成案」は7月1日に閣議報告がなされたものである。この成案が「閣議決定」ではなく,「閣議報告」であった理由は,辞めることが決まっている菅内閣の閣議決定に次の内閣が拘束されるのは困るという考えと政権交代時のマニフェストで消費増税はしないとしていた民主党内をまとめきれなかったものと考えられる。しかしながら,今回の成案が自民党・麻生政権時の社会保障国民会議の最終案と内容的に大きく変わらないことからも,わが国の直面している問題は非常に深刻な状態であり,誰が考えてもそれほどの選択肢がある状況にはすでにないということを示している。野田新首相は前財務大臣であり,新政権は消費増税を前提としている政権であるので,国民に必要な負担を求め,給付の効率化を進めつつ,財政の健全化を目指す方向は変わらないものと考えられる。



2.社会保障・税一体改革成案の概要について

 今回の改革案で示されているポイントは,①社会保障の重点化と効率化,②そのための財源の確保,③全員参加社会の実現のための年齢,性別にかかわらない就労の促進,④少子化対策,そして⑤財政再建である。これは,少子高齢化による需要の拡大とそれにともなう労働人口の減少による供給の減少とさらに雇用基盤の変化や出口の見えない経済不況の中で財源確保の問題を解決するための改革の方向を示したものであり,高齢社会と人口減少という未知のパラダイムに合わせて①実現可能な社会保障の仕組みを構築すること,②成長を生み出せる効率的な経済体質を創生すること,③財政を健全化すること−と読み換えることができる。国民の負担のあり方としては,消費税を社会保障財源としてその使途を明確化し,2010 年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げるとされた。特筆すべきは,消費税の引き上げ分については,社会保障給付における国と地方の役割分担に応じ配分するとされたことである。この改革案を一読すると社会保障財源は医療も含めて,消費税で賄われるのかと思いがちであるが,実は,医療保障の主財源は社会保険料とされている。その根拠として日本福祉大教授・副学長の二木立氏1)は,「個別分野における具体的改革」を行う上での留意点の②として「負担と給付の関係が明確な社会保険(=共助・連帯)の枠組みの強化による機能強化を基本とする」と明記しており,「消費税を主たる財源とする社会保障安定財源の確保」の項では,「社会保障給付に要する公費負担の費用は,消費税収(国・地方)を主要な財源として確保する」と限定的に書いている。つまり,公費負担分以外の社会(医療)保障給付費は従来どおり保険料になると指摘している。また,改革の留意点の①として,「自助・共助・公助の最適バランスに留意し,個人の尊厳の保持,自立・自助を国民相互の共助・連帯の仕組みを通じて支援していくことを基本に…」としていることから,自立・自助を基本とした改革案であると考えられる。この改革案を正確に推し進めるための必須条件として社会保障・税にかかわる共通番号制度,いわゆる「マイナンバー」の早期導入が図られているが,番号制の導入については過去2度失敗しており,国民に対して十分な説明が必要である。


3.社会保障・税一体改革成案の評価

1)政策決定

 府医の安達秀樹副会長は,今回の成案が自民党政権時代の「社会保障国民会議の最終案」に酷似しているが,民主党は政権交代時にこの報告を無視し,議論を重ねるべき時間を浪費したのではないかと民主党政権に反省を求めたうえで,消費増税に関しては特別会計の見直しだけでは財源的にも到底足りないが,国民に不公平感の強い特別会計を開示し,その見直しを行い,社会保障強化の財源確保のために国民負担の増額への理解を得るという道筋が重要であると指摘している。さらに,4年間は消費税を上げないとした訳であるから,仮に国家財政の観点からこの期間に税率の引き上げが行われるときには,改めて国民に信を問わなければならないとしている(*2)。確かに政策を転換する場合,民意は最優先されなければならないが,選挙があるとするならば,次の選挙は本当の意味でわが国の将来を決める選挙になるため,国民に対する十分な情報提供と議論が尽くされた上でなければならない。そうでなければ,選挙はただの人気投票に終わり,さらなる時間の浪費になる。


2)中規模・高機能社会保障について

 これまで使われてきた「高負担・高福祉」「低負担・低福祉」という言葉に代わって,今回「中規模・高機能な社会保障」という言葉が使われた。国民が高福祉を求めるとき,それを実現しようとすれば,そのために必要な費用の負担は当然高くなる。ところで,わが国がおかれている状況は,世界のどの国も経験したことのない少子高齢社会である。つまり,医療・介護の分野で費用が膨れ上がる反面,労働人口が減少し,それにともなって社会保障を支える財源となる所得の減少が予測されている。つまり,現状において国民から期待される「福祉」を達成することは相当な困難なことであり,社会保障の改革の方向として,徹底的な節約と技術革新が必要であるということを意味する。二木立氏(*1)は「中規模・高機能な社会保障」について「小さな政府」と「大きな政府」の両方を否定し,社会保障に上限を設けたものであると指摘し,その上限の目安を「OECD 先進国の水準」としているが,それが「中規模」というものであろうか。「先進国の平均まで給付の水準を上げます。だから負担をお願いします」というレベルの話ではない。超高齢化と人口減少を迎える中で,①どういう社会保障を実現するのか,②そのための財源を少ない労働人口で効果的に生み出せる経済体質はどうすれば作り出せるのか,③社会保障のあり方と財源バランスを取りながら財政を健全化する。この3つがこれまでの政権にも与えられてきたテーマであるが,いずれの政権も答えを出せていない。この問題を解決するために必要な方向性を示す言葉が,「中規模・高機能な社会保障」であり,決して増税が問題を解決するということではないことを強調したい。


3)負担と給付について

 国税と地方税を合わせた租税負担の国民所得に対する比率である租税負担率と年金や医療保険などの社会保障負担の国民所得に対する比率である社会保障負担率との合計を国民負担率という。先進諸国では近年,国民負担率が低下する傾向にあるが,わが国では,平成15(2003)年度以来の増税基調と景気の回復を反映した増収より上昇している。わが国の平成19(2007)年度の国民負担率は40.6%であったが,先進諸国と比べてみると(図1),デンマークが71.7%,スウェーデンが64.3%,フランスが61.2%,ドイツが52.4%,イギリスが48.3%,アメリカが34.9%となっている。国民負担率でみると,日本は「小さな政府」と言える。一方で,社会保障給付費率(税や社会保障による公的支出対GDP 比)はOECD 諸国の中で21番目(35 ヶ国中)である(図2)。わが国は「中負担中福祉」というより「低負担まあまあ中福祉」くらいである。わが国の実情は,少ない財源で効率的に社会保障を提供しているという点で特徴的と言えるかもしれない。最近の世論調査では,財政再建や社会保障制度を維持するためには消費税率の引き上げもやむをえないと50%以上の人が考えているという結果も報告されている。


4.さて,これから目指すべき方向は?

 国民負担率が高いということは,「大きい政府」であるということ。国民負担率が高いと,国民の手元に残るお金は少なくなる。代わりに,医療や教育などの社会サービスを利用するときに自己負担が少なくて済む。一方,「小さい政府」は国民負担率が少ないということ。国民の手元にお金がたくさん残る代わりに,病気になった時や子どもが学校に行くときに自己負担が高くなる。どちらがいいかは,もちろん国民の判断であるが,一般に医療機関を利用する人は,社会的弱者(経済的弱者)であるといわれている。今後,高齢者が増加するわが国では,当然のことながら罹患率も増加し,医療を必要とする人が増える。国民負担率の低い社会で起こる現象は,医療などの社会保障サービスを受けるときに自己負担が増えるということになるので,経済的弱者は医療を受けられないということが起きる。現実にわが国の医療を受けた時の自己負担率が引き上げられ3割に達している。これ以上の自己負担増は,リスクの分散という保険制度本来の機能が果たせなくなることを意味する。だからどういう社会保障のあり方を選択するかが,本当に大切なのであるが,それは,諸外国に合わせるのではなく,文化的歴史的背景もふまえて,国民自身が選択するべきものである。社会保障のあり方を考えるとき,財源の問題は避けて通れないが,現在のわが国のおかれている状況はその財源となる税収の伸びる見込みについて極めて不確実と言わざるをえない。これ以上の財源はないことを前提に考えるべきである。だから現状における政府の責任は,まず財政の透明化である。国民にさらに負担増を求めるならば,徹底的な無駄の排除を行ったうえで,その使い道はすべて明確にされなければならない。そして,教育の見直し,雇用環境の再構築,少子化対策などを行い,人口減少に歯止めを掛け国民全員が参加できる社会を構築することである。国民は,自立に関する認識を明確に持ちつつ,さらに積極的に社会参加する必要がある。社会参加とは就労と相応の負担をして共助のシステムを構成することである。また,予防への取組みなど健康管理に努めることも求められるだろう。さて,そのような社会におけるわれわれ医療関係者の役割は①効率的・効果的医療の提供により,疾病に罹患しても早期に社会復帰できることに貢献すること,②医療・介護を通じて高齢者が安心して暮らせる社会作りをリードすること,③予防医学を通じて国民の自立・自助を支援すること−である。社会保障は与えられるものでなく,国民一人ひとりの参加によって構築されるものであるという意識改革が今求められている。

【参考文献】
 (*1) 二木立:「社会保障・税一体改革案」をどう読むか?:日本医事新報No.4551,2011.7.16
 (*2) 安達秀樹:「民主党社会保障政策の変遷」:Japan Medicine:2011.7.25


【図1】
国民負担率(対国民所得比)の国際比較(OECD加盟28カ国)


【図2】
社会保障給付費の国際比較(OECD諸国)(2007年)




| ご意見 (0) | 2011.10.03, Monday 11:29 AM |



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