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新政権は,原点に戻って政治の信頼回復を【京都府医師会長:森 洋一】
 8月30 日に,新たな民主党代表に野田氏が選出され,第95 代首相に就任されました。9月2日に新政権が誕生したのは,既報のとおりです。基地問題とぶれる発言で鳩山首相が退陣し,菅首相は,東日本大震災の対応のまずさと,国民だけでなく閣僚へも十分な説明もなく方針変更が繰り返され,独善的な政治運営で党内外から不評を買い退陣となり,2年前の民主党政権誕生時の熱気は,大きくしぼんでしまったと思われました。どうしてこのようなことになったのか,十分な検討が必要ですが,新政権への支持率は,予想より高いと報道されています。このことは,少なくとも,「コンクリートから人へ」「生活第一」を期待して,2年前に政権交代を支持した国民の期待は,未だ潰えていないということのように思われます。

 自民党の支持率が伸び悩み,野田新首相への期待が強いことは,多くの国民が,いまだに永年続いた自公政権の「政治とカネ」の問題と官僚との癒着で動かされてきた我が国の政治形態に対して,不信感を抱いているということではないでしょか。マニフェストは守らなければならないと思いますが,想定していた方策では財源が捻出できなかったことは事実であり,民主党政権は,謙虚にその見通しの甘さを反省し,説明するとともに,東日本大震災の復興を口実に単純に増税路線に踏み切るのではなく,4年間で実施するとしてきた,いわゆる民主党の目玉政策に優先順位をつけ,実施計画と工程の見直しについて謙虚に国民に説明し,その理解を得る努力をなすべきであります。おそらく,大半の国民は,2年前のマニフェストを4年間ですべて実現できるものとは考えていなかったであろうし,今後いかなる政党であってもあのように総花的に,選挙受けをするような項目を並べ立てて,いたずらに国民に期待を抱かせるような手法は通用しないと考えるべきです。国民もあまりにも都合の良い話には,乗らないよう真剣に考えなければならないと思います。この20 年間,我が国の経済を回復させることができずにきた政治が,今後10 年で,大きく経済を回復させることができるとは考えられません。それが可能であれば,リーマンショックがあったとしても,すでに日本の経済は回復基調に入っていなければならないと思います。これだけの期間,偉い経済学者がいろいろ提案をしてきましたが,未だにどのような経済政策が正しいのか結論が出ていないことを現しています。経済成長も必要でしょうが,経済に見合った政治という考え方も必要な時代かもしれません。

 各種アンケート調査の結果でも,大半の国民は医療介護を中心とした社会保障の充実を求めています。国民が安心して生活し,健康で生き甲斐のある一生を終えるには,将来への安心がなければなりません。我々は,以前より,社会保障を充実させることは,雇用を拡大し,内需の拡大にも寄与すること,また,雇用を安定させ内需を拡大することで我が国の経済構造を変化させ,日本の社会のあり方を変える大きな起爆剤になるのではないか,というよりは,社会保障を充実させ,社会状況,経済状況を一定程度安定させることが,安心して我が国の経済状況や新たな産業構造の変革に着手するためには必要ではないかとしてきました。

 東日本大震災を契機に,国民の生き方,考え方も大きく変わろうとしています。被災地の復興を日本そのものが生まれ変わる第一歩とすべく,政治も社会も大きな一歩を踏み出さなくてはならないと思います。残念ながら,震災復興の予算措置などは国会を通過しましたが,貴重な財源をもとにした復興計画は遅々として進んでいないと言わざるをえません。新政権は,党内融和に腐心されたバランスの良い政権となりそうですが,ミッドフィルダー中心でパスワークが上手いだけのかつての日本代表のような無難なサッカーでは,この苦境を乗り切ることは困難です。また,「素人みたいなものです」との発言が2,3の閣僚から出ていますが,日本の将来を担っていこうという人たちが,謙虚と言えば謙虚でしょうが,このような発言をすることは,国内外に政権の見識が問われかねません。政権に就く,閣僚となって国を動かす責任の重さをもっと強く認識し,国民の政治への信頼を確保しなければ,我が国に将来はないといえるでしょう。

 2年前の政権交代以前から,この日が来ると何故もっと与党としての政治力の強化,経済や社会保障政策への勉強をしてこなかったのでしょうか。政治家にとっての,政治への責任は重いとすべての国会議員が言われます。多くの有権者の支持を得て当選されていますが,その一票の重さとともに,対立候補へ投票された一票も政治家としては重く受け止めなければなりません。我々医療従事者が,国民としてその社会保障のあるべき姿を,医療制度のあるべき姿を国民に提示していくことが今ほど大切なときはないと思います。国民の健康と生命を守る医師が,医師会が一丸となって国民の信頼を背景に社会保障のあるべき姿を政治に訴えていく。現在の与野党は,多少の意見の相違はあるとはいえ,社会保障の充実を無視しては政権を獲得したり維持することは困難な社会状況です。しかしながら,国会,地方議会を含めて医療,介護のあり方を理解している方は少ないというのが現状です。我々が声を上げていくことが,政治の医療への理解を強化しますし,国民の安心,健康と生命を守る政治こそが,これからの社会のあり方,国家のあり方につながると思います。そして,政治が国民のために何をなすべきかということを真剣に考え,与野党を問わず,政治家の国家観,創りあげたい社会のあるべき姿を真摯に議論し,提示していくことが,政治の信頼回復につながるのだと思います。政治主導というのは,官僚との対峙だけではなく,国民のために何をなすべきか,政権の方針を明示して,そこに,官僚機構を上げて協力させることこそ真の政治主導ではないかと思います。

 民主党政権の原点に戻って,説明責任を果たし,議論をオープンにして政治を行う。かつての権力闘争に明け暮れる政治ではない,新しい時代の政治の幕開けとなることを期待したいと思います。



| ご意見 (0) | 2011.09.15, Thursday 03:14 PM |
医療崩壊につながるTPP は容認できない【京都府医師会長:森 洋一】
 TPP についての議論がかまびすしい。TPP とはどういうものなのでしょうか。それ以外に,FTA,EPA という言葉も耳にします。

 FTA(自由貿易協定)は,2カ国以上の国や地域が相互に関税や輸入割当など,その他の貿易制限的な措置を撤廃あるいは削減することを決めた協定です。無税で輸出入ができるようになり,消費者にとってはメリットがあります。1980 年代末までは,世界でも16 件のFTAしかありませんでしたが,2000 年代から2009 年代までに105 件増加し,現在,世界には170近くのFTA が存在します。日本では,2001 年1月のシンガポールとのEPA 交渉の開始からFTA の歴史が幕を開けました。

 EPA(経済連携協定)は,関税やサービス貿易の自由化に加え,投資,政府調達,知的財産権,人の移動,ビジネス環境整備など幅広い分野をカバーし,相手国と「連携」して貿易や投資を拡大します。FTA をさらに進めたものと考えて良いと思います。日本は,2002 年11 月にシンガポールと初めてのEPA を締結しました。その後,マレーシア,チリなど,次々に発効し,2008 年12 月にはASEAN 全体との間でAJCEP(ASEAN・日本包括的経済連携協定)が発効しました。現在も,オーストラリア,インド等ともEPA 交渉を行い,過日,インドとのEPAが締結されました。

 これらを一歩進めた,環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)についての議論がここ数年進められています。これは,シンガポール,ニュージーランド,チリが2002 年に交渉開始したのが始まりで,2006 年にブルネイを加えた4カ国で発効。同年,ブッシュ政権下で米国がAPECワイドのFTA 構想(FTAAP)を提唱しました。

 日本も菅首相が,唐突に今年6月を目途に,TPP への参加を検討すると表明しました。3月11 日の東日本大震災の発生で,現在は議論が止まっていますが,東日本大震災の復興が一定の軌道に乗った段階で再燃してくることは間違いありません。TPP 交渉には,各国の外交問題や政治状況,経済状況が大きく関与していることを認識しておかなければなりません。米国では,ブッシュ政権からオバマ政権へと政権交代しましたが,リーマンショックによる米国の失業率の悪化と経済の低迷の解決がオバマ政権維持のために欠かすことのできない喫緊の課題ですが,中でも最大の問題は,米国の貿易・投資自由化政策の推進です。

 貿易・投資の自由化は,第二次世界大戦後の世界経済を牽引する米国の最大の課題でした。世界が参加してきたWTO 交渉,特にドーハラウンドの行き詰まりとその後の交渉の停滞以降,米国は自らの立場をさらに強固なものとするために,米国経済界が望む金融サービス,投資の自由化の促進を世界に強く求めてきました。

 最近とみに経済力をつけてきたAPEC では,1994 年にインドネシアで「先進国は遅くとも2010 年までに,また,途上国は遅くとも2020 年までに自由で開かれた貿易および投資という目標を達成する」とするボゴール宣言を行いましたが,その実現は困難となっています。当初は二国間から始まった,関税,障壁の撤廃による貿易の活性化でしたが,多数の国が「排他的な二国間協定」を結び,米国が関知しない協定の方がはるかに多くなり,米国が主導権をとれない状況となっています。そのために,米国(ブッシュ政権)は2008 年2月にTPP(P-4)に参加する方針に変更しました。2009 年,オバマ政権が,APEC サミットにあわせTPP への交渉参加方針を表明。2010 年3月に政府間交渉を開始し,シンガポール,ニュージーランド,ブルネイ,チリ,米国,オーストラリア,ペルー,ベトナム,マレーシアの9カ国で,現在24の分野で作業部会を設置して協議を進めています。また,現在のTPP は,環太平洋諸国が一致して中国に対抗しようという外交戦略とも絡んできている面もあります。日本では,輸出産業と農業の問題が取り上げられていますが,大きな外交政策を含んでいることを念頭に置いて議論を進めなければならないと思います。対中国戦略という観点からも,米国は日本の参加を強く求めていると思われます。

 「平成の開国」として菅政権は,TPP 参加を提唱しましたが,少なくとも,多くの国とFTA,EPA を締結している我が国が,TPP に参加しないと「鎖国」状態となるという発想が歪であると言わざるをえません。また,外交政策も大いに関与するために,我が国の外交方針の明示も欠かすことができません。その上で,すでに議論があるように,TPP 参加で,有利な面,どの分野が利益をどの程度上げるのか,そして,農業分野での反対論が強いが,農業のダメージはどの程度あるのか,それを補う方策はあるのか。農業以外の分野においても,もっと具体的な数字を国民に示し,その意義を問うべきであります。

 ここで,少しだけ,農業について述べます。某元大臣が,日本の農業の生み出す所得はGDPの1.5%であり,95%を超える輸出産業のメリットに比較するとTPP に加入しないことによる損失が大きいとの発言がありました。これについては,我が国の主要マスコミは取り上げていませんが,全く現状を理解していない発言と広く認識されていることを知るべきです。

 まず,GDP における農業所得の比率が高い国は,中国11.3%,インド17.1%,ブラジル5.7%等で,いずれも,国の経済が農業から工業へとシフトしてきており,日本もいつか通った道であります。先進国では,仏が1.8%で一番高く,日本は1.5%で二番目,以下,米国,独,英国が1%前後で続いていますが,農業の比率が低下するのは先進国の経済活動の結果です。また,OECD の1997 年の報告書では,2020 年には,農産物の総輸入量は,日本:1750 億ドル,中国:1700 億ドル,EU:1550 億ドル になると予測されています。この4000 億ドルを超える農産物の供給が行えるのは,米国:2750 億ドル,オセアニア:1100 億ドルなどとされています。米国の農産物はGDP の1.1%を占めるのみですが,世界の胃袋を支配するということも十分認識しておかなければなりませんし,食糧自給率を高め,自国の安全保障の戦略的な産業として将来どうするのかという議論が必要です。

 農業分野一つとってもこのような状況にあります。日本として対応できるのはどの分野であるのか,資本や人が自由に行き来できるようになると医療分野においても,株式会社参入や外国人医療従事者の問題,混合診療が大きな問題となります。国の施策として対応するのかしないのか。「医療崩壊につながるような対応はしない」という程度の表現ではなく,「医療における人的,資本的な自由交易は認めない」という明瞭な意思表示を政府が行うことが大切です。少なくとも,TPP の参加交渉国の間で,米国は,農業,医療の最輸出国であり,現在の米国の経済低迷を打開する方策として,EU 諸国は,米国の主導ではコントロールできませんが,環太平洋諸国では,中国を除外したTPP の締結は今後の米国の経済政策には最重点課題であることは明白であります。米国財界ロビーからもサービス分野の自由化,知的財産権の実効的な保護,投資の自由化と投資家保護などを強く主張しており,TPP に参加すると,資本や労働力の自由化の促進は避けて通ることのできない道となり,結果として米国の巨大な資本がアジア太平洋地域を席捲し,米国製品,米国資本の輸出が加速されることになります。TPP の成功は,米国のサービス産業に大きな市場を提供することになり,医療における,資源,人材,サービスの流入は避けて通れず,日本にとっては,医療,介護の分野のみならず,投資,金融部門での危機的状況が予測されます。

 府医としては,現状のTPP への参加は,株式会社の医療への参入,特に外国資本の参入による病院経営や人的な交流による外国人医師,看護師の限度なき国際化が進められることになるために,政府の,「混合診療は許容しない,株式会社の医療機関経営を認容しない」とする明確な方針が明示されない以上,崩壊寸前の我が国の医療に多くの悪影響を及ぼすTPP への参加については,絶対に容認できないという立場を貫くべきであると考えます。



| ご意見 (0) | 2011.08.15, Monday 03:00 PM |
日本はこれから何を目指すのか【京都府医師会長:森 洋一】
日本はこれから何を目指すのか

京都府医師会長  森 洋一

 東日本大地震を契機に、国民の意識は大きく変わろうとしていますが、恐らく変わろうという意識が希薄なのは、政治家だけではないかと思われる程に、国会での議論は進まず、政局に明け暮れています。想定外という言葉が便利使いされ、何でも想定外で済ませてしまう風潮があります。今回の災害を想定していた人たちは、蚊帳の外におかれ、想定外として、他人事のように評論する学者や原発関係の評論家がマスコミを賑わしています。多くの人たちが、今回の大震災を契機に、ものの見方、考え方、生活のあり方を変えようとする意識が強くなった中で、マスコミも学者たちも自ら意識改革をしなければならないと考えます。
 バブル崩壊後、緩やかな回復傾向を見せていた日本経済が、その後、一向に回復せず、格差の拡大と雇用環境の悪化に国民は喘いできましたが、政治家や経済学者は、改革が不十分の一点張りで、何ら有効な対応ができませんでした。財政の悪化と社会保障費の増加から消費税の増税による財源確保が政治課題に上がっていますが、選挙、政局が政治信念、理念より優先される我が国の政界では、真剣に議論されないままに先送りとなっています。政治の最大の課題は、消費税ではなく、我が国をどのような国にするかが、一番問われるべきであります。国のあるべき姿を提示し、その目標に向かって工程表に添った計画を示し、そのための費用と成果を明示して費用負担をお願いするということが必要です。社会保障費で財政が破綻するから消費税をという議論では、では増税はすべて社会保障に回すのですか、年金のように勝手に使ってしまうことやどこかに消えることはないのですか-という話をしなければなりません。
 ご承知のように、北欧は、福祉の国が「国是」である所が多い。また、アメリカは「自由」が、フランスは「自由、平等、友愛」が国民のアイデンティティーといわれてきましたが、これらの国でも、アイデンティティーとはという議論が興ってきています。
 では、我が国は、どうでしょうか?
 日本をどのような国にするのかという真剣な議論がいま、一番求められている、いや、もっと以前から議論しておかなければならないことだったのではないでしょうか。
 多くの国民は、定年後の生活、社会保障に不安を持っていると答えています。何故でしょうか?皆年金制度、世界に誇る皆保険制度がありながら、明日の心配をしなければならないのは何故でしょうか。政治が、国民に明日の安心を示すことができずにきたからだといわざるをえません。
 日本は、革命で自由や、民主主義を獲得した歴史も有りません。明治維新以降も、欧米に追いつき追い越せで世界から学びました。第二次大戦後も、ひたすら世界に追いつき追い越せで、世界第二位(今は三位ですが)の経済大国に成長しましたが、日本人の国是の確立には至らなかったといわざるをえません。
 今必要なことは、政治が、信頼を回復し、明日に希望の持てる、明日に仄かでも良いから希望の明かりを示すことだと思います。
 今回の震災で明らかになったように、我が国の国民の忍耐力、思いやり、何よりも、現場での多くの人たちの支援、実行力、被災者の現場力は、素晴らしいものが有ります。これが、企業の利益や、霞が関、政権となると、途端にまとまりが無くなり、「俺が俺が」の世界になってしまい、危機管理すらできない状況となります。マスコミも、大災害の復興局面に入り、これからはどういう支援が求められるのか、街づくりに対する住民の声をどう取り上げて行くのかという地味な報道が求められているにもかかわらず、政局と原発問題や風評被害を煽りかねない報道が目に付いてしまいます。
 経済も行き詰まり、政治も行き詰まっている今こそ、国民が声を挙げて、日本をどの様な国にして行くのかを考えていく、自らの力で国づくりをしていかなければならない時代になったと思います。
 多くの国民は、福祉の充実を望んでいますが、北欧のような福祉国家作りは可能でしょうか。米国のグローバリズムが世界を席巻するなかで、リーマンショック以来、徹底した利益追求への懸念、見直しが、経済や哲学の分野でも出てきています。経済活動においても、自律や一定の規制が求められている時代です。政治の世界でも、我が国のあるべき姿、すべての国民が一緒になって取組める目標を設定すべき時だと思います。残念ながら、1億3千万人の夢が結実するような、国是を提唱してくれるような宰相は、儚い望みかもしれませんが。
 医療に従事するものとして、この数十年忘れてきていたもの、日本人らしさを求めていきたいと思います。人に優しい社会、互いを思いやる社会、お互い様、素直に有り難うといえる心を育てる教育が欠かせないと思います。ここから出発すれば、医療の提供体制、多職種との連携など上手くいかないはずがありません。社会と医療の関わりはさらに緊密なものとなり、患者さん中心の医療・介護・福祉の提供がスムーズにできるはずです。世界では理解しがたいかも知れませんが、古来より、近江商人の三方よしの経営理念、陰徳善事などの考え方は、これからの世界の経営者に欠かすことのできない考えだと思います。今回の東日本大震災で、世界中が日本人の一端を理解したといわれています。忍耐力があり、決して感情に走るのではなく、お互いを思いやり復興に全力を挙げている姿を見て、国民は一流、政治は三流とすらいわれています。我々が求める、患者さん中心の医療。以前から申し上げているように、患者さんとともに医療に取組み、そのために、最善の医療が提供できるよう自己研鑽を積み、患者さんの信頼を確保する。国は、最善の医療を提供できるよう医療体制を確保し財源を確保する。国民は、最善の医療を受けるために、一定の負担と自らの健康を守るために努める。これらを、人に優しい、思いやりの心で実践できる国作りを医療界から政治の世界に強く訴えていかなければ、国民の生命と健康が守れないと信じてこれからも府医は活動を続けていきたいと思います。


| ご意見 (0) | 2011.07.15, Friday 01:51 PM |
[TPP」と日本の医療
「TPP」と日本の医療 
 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についての議論がなされています。それ以外に、
FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)という言葉も耳にします。 
 TPPとはどういうものなのでしょうか。一度じっくりと考えてみる必要があります。

◆TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)
 参加国間での貿易に関する関税の撤廃を原則としており、例外規定が少ない完全自由
化ともいわれています。
 2006年にシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国で発効。現在、シンガ
ポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレー
シアの9カ国が24分野で作業部会を設置して協議を進めています。(2111年3月現在)

TPP・・・物品の貿易、サービス貿易、政府調達、競争政策、知的財産権、人の移動等を含む
     包括的協定。2011年6月現在9カ国で交渉中

FTA・・・特定の国や地域間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削除・撤廃する協定
      ○ 関税の削除・撤廃
      ○ サービスへの外資規制撤廃

EPA・・・ヒト、モノ、カネの移動の自由化、円滑化を図り、幅広い経済関係の強化を図る協定
      ○ 人的交流の拡大 
      ○ 各分野での協力
      ○ 投資規制撤廃、投資ルールの整備
      ○ 知的財産制度、競争政策の調和

 ~TPPには色んな国際事情も絡んでいます~ 
 当初は、2国間から始まった関税、障壁の撤廃による貿易の活性化でしたが、現在のTPP
は、環太平洋諸国が取り組もうとしている外交戦略とも絡んできています。日本では、輸出産
業と農業の問題が取り上げられていますが、大きな外交政策を含んでいる事を念頭に置いて
議論を進めなければならないと思います。一方でオバマ政権は、低迷する経済、雇用環境か
ら政権の浮揚政策としてTPPによる輸出の拡大を打ち出しており、協議中の24分野の指定
なども米国主導で決定されたものといわれており、TPPの中心的役割、牽引車として交渉を
進めていくものと思われます。

 ~TPPで全ての分野が自由化に?~
 TPPへの参加については、当初、農業だけの問題と受けとめられていましたが、実はほとん
どの産業に関係することが分かってきました。一方で日本が参加すると10カ国の貿易総額の
9割は日米で占めることとなり、大半のTPPのメリットは米国の一人占めになりかねないとい
われています。
 日本の経済、産業を大きく変えていくことになるTPPへの参加を、国民に十分な情報を明示
しないまま結論を得ようとしている政府の対応は拙速きわまりなく、日本の将来に暗雲をもた
らすものでしかないといえます。
  
 ~TPPへの参加で日本の医療はとうなる?~
 国民の安心・安全な医療の確保にTPPがどのような影響をもたらすのか、不明な点が多い
なか、「いつでも、どこでも、誰でも安心できる医療」を享受できる国民皆保険制度が揺らぐこ
とがあってはいけません。

 ◎日本がTPPに参加した場合 →→→ 医療分野における 問題点

 TPPによって受けられる医療に格差が生じる?  
 TPPへの参加により、外国人患者の受け入れが活発になることが予想され、当面は富裕層
に対する自由価格での検査・健診等が想定されています。これが拡大すると、お金持ちは自由
診療で先進の医療を受け、それに伴い、保険診療で受診している日本人患者の検査等が後回
しにされるおそれがあります。所得によって受けられる医療に格差が生じる社会になってはいけ
ません。

 様々な分野への市場開放圧力により、公的医療保険の給付は範囲が縮小する?
 TPPへの参加により、医療分野にも市場開放を求める圧力がかかる可能性があります。TPP
への参加や規制改革を推進する人達は、混合診療を全面解禁して、保険診療との併用による
自由価格の医療市場の拡大を強く要望するでしょう。これは外資を含む民間営利企業にとって
魅力的かつ大きな市場が開放されることを意味しますが、それに呼応して、国の財政的な理由
により皆さんが現在受けておられる保険診療の範囲が縮小され、結果として自己負担が増加す
るなど、社会保障が後退するおそれがあります。

 株式会社による医療機関経営への参入が自由化されると患者の不利益が拡大します
 営利を追求市内医療法人に比べて、株式会社は配当のためにより多くの利益を確保する必要
があります。そこで、下記のような問題が生じるおそれがあります。
 ■医療の質の低下
  株式会社が経営すると収入増やコスト圧縮を追求するあまり、乱診乱療、粗診粗療を強要さ
  れかねず、医療の質や安全性が低下する懸念があります。米国では実際にそのような事例
  がありました。
 ■不採算部門等からの撤退(地域医療提供体制の崩壊)
  利益を追求するため、不採算な患者や部門、地域(地方やへき地等)から撤退することが懸
  念されるほか、不採算であることを理由に医療機関経営自体から撤退することもあり得ます。

 医療の事後チェックにより、医療の安全性が低下する?
 日本は「国民皆保険」の下で、公的医療保険の給付範囲、医療の安全性・有効性を事前に慎
重に審査し、その質を維持してきました。
 TPPへの参加や規制改革を推進する人達には、混合診療を拡大し、特に新規の先進医療につ
いては保険診療の対象外として、安全性・有効性等についても「事後チェック」で行おうという考え
方があります。
 患者さんと医師では保有する医療情報にどうしても格差が生じますし(医療情報の非対称性)、
そのような医療であるからこそ患者さんへの治療に導入される前にチェックして安全性や有効性
等が担保されるべきなのです。
 経済成長ありきの市場開放によって、医療においても「事後チェック」を導入すると医療の安全
性を低下させるおそれがあります。

TPPへの参加検討にあたっては、国民皆保険を貿易と同様の「自由化」にさらすことのない
よう強く求めます!

 外国資本や国内の営利企業はTPPによって日本に自由価格の医療市場を迫っています。
 『混合診療の全面解禁』『医療ツーリズム』『株式会社参入』『外国人医師の受け入れ』はその象
徴であり、崩壊寸前の我が国の医療に壊滅的な打撃を与える事にならないよう、国民皆保険制
度を堅持するという観点から、これらの限度なき自由化を含むTPPへの参加には断固反対します。

日本が安定した公的医療保健制度を確立していることの重要さを政府のみならず、
国民一人ひとりが認識しなければなりません。みなさんも是非、一緒にお考えください!


 こちらをダウンロードいただきますと、カラーイラスト入りでご覧いただけます。 →みんなの医療KYOTO VOL.3 


| ご意見 (0) | 2011.06.29, Wednesday 12:55 PM |
京都府医師会「東北地方太平洋沖地震」対策本部より
3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震は、マグニチュード8.8という未曾有の大地震であり、さらには、我々の想像を絶する規模での大津波を引き起こし、北は北海道、青森から南は千葉、東京、神奈川にいたるまでの広範囲な被害をもたらしました。

規模といい、被災範囲からも、かつて経験した事のない大規模な災害であり、多くの亡くなられた方々、被災者には、衷心よりお悔やみ申し上げます。また、行方不明となっておられる方々の一日も早い救出と被災者への医療面からの早期の手当が望まれています。

すでに、京都府は勿論全国から、そして50カ国を超える国々からも援助の手がさしのべられようとしています。残念ながら、甚大な被害により、ライフラインは寸断され、交通網も麻痺状態であり、被災者の救出すらままならない状況であると聞いております。

このような被災状況を鑑みて、京都府医師会では対策本部を設置いたしました。この対策本部において、被災者の一日も早い救出と傷害への治療などが適切に行えるよう情報収集に努めるとともに、京都府とも連携し、さらには被災県などとの連携のもと、迅速かつ有機的な支援体制を、人的、物的支援の両面から全力をあげて行って参ります。また、今後継続的に必要となる被災者への医療提供や精神的な支援についても、幅広く協力を行ってまいります。
会員各位におかれましては、京都府医師会「東北地方太平洋沖地震」対策本部のもと、協力して情報の収集にあたっていただくとともに、医療支援などについても、ご協力をいただきますようお願い申し上げます。なお、府医の収集している範囲の情報は、逐次HPや会員MLで提供して参ります。

なお、今回の多数の県域におよぶ被災範囲の広さを考えますと、その復興には、阪神淡路大震災以上の困難と財源が必要になると考えられます。医療面からの支援のみならず、被災地の生活、経済を支えるためにも、会員各位の物心、金銭面での絶大なる支援も欠かせないものと考えております。週明けには、各医療機関へ、支援体制を構築するための方策を要望すべく検討をすすめております。宜しくご協力をいただきますようお願い申し上げます。


京都府医師会「東北地方太平洋沖地震」対策本部
 本部長  森 洋一

| ご意見 (0) | 2011.03.12, Saturday 05:41 PM |
「これからの予防接種」 【京都府医師会理事:藤田 克寿】
予防接種は万能ではありませんが、その特徴を理解して上手に利用すれば感染症対策の有効な手段であり、我々に大きな益をもたらすものです。

我が国の予防接種はまず「定期接種」と「任意接種」に分けられます。定期接種は予防接種法に基づいて行われますが、この法律で定期の予防接種と臨時の予防接種は実施要件および実施方法が異なる形で規定されています。この法律による予防接種制度の下では、予防接種を受ける者は予防接種を「受けるように努めなければならない」(努力義務)とされています。しかし、2001年の予防接種法改正でインフルエンザが追加された際、対象疾病が①個人予防と集団予防の両方を接種の目的とする一類疾病と②個人予防を主な目的とする二類疾病に2分割され、季節性インフルエンザは二類疾病に分類されましたが、二類疾病の予防接種には、「個人の発症および重症化の予防を図り併せてその蔓延の予防に資することを目的とする」、ということで努力義務は課されませんでした。

新たな感染症が発生した時に対応する臨時接種は、疾病のまん延予防上、緊急の必要がある場合に、公的な勧奨接種の下、予防接種を受ける者等に努力義務を課して予防接種を実施するものですが、2009年に流行した新型インフルエンザ(A/H1N1)は感染力は高いが季節性インフルエンザと同程度の病原性で、努力義務を課す必要性が認められませんでした。そこで、今回の新型インフルエンザ(A/H1N1)やこれから生じる可能性がある病原性の高くない新型インフルエンザに対応するための新たな臨時接種が創設されることになり、予防接種法の一部を改正する法律案が国会に提出されています。

 日本の予防接種は定期接種と任意接種の壁を取り除かなければ世界のワクチンレベルに追い付けないと言って過言ではありません。世界の国々で全ての子どもに使用されているワクチンが我が国では勧奨されていないという、ワクチンギャップ(問題)が存在しています。国民を感染症から守るためには国(政府)の強い意志と働きかけが必要ですが、それにはこの定期接種と任意接種に分けている予防接種法の根本改正が必要です。

今回、厚生労働省は予防接種部会の意見書を受け、子宮頚がん予防(HPV)ワクチン、ヒブ(インフルエンザ菌b型)ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの予防接種を促進するための基金を都道府県に設置し、これらの定期接種化に向けた検討を行うことになりました。

 予防接種で防げる病気をVPD(Vaccine Preventable Disease)と呼びますが、京都府医師会ではこれからも新たに公的予防接種の対象とすべきワクチンについて、公費無料化を含めた活動を続けていきます。


こちらをダウンロードいただきますと、カラーイラスト入りでご覧いただけます。 → みんなの医療KYOTO VOL.2



| ご意見 (0) | 2011.03.02, Wednesday 06:37 PM |
「がん検診のすすめ」  【京都府医師会理事:松井 道宣】
1.がんは早期発見が大切

 かつては、不治の病と恐れられていた「がん」ですが、治療法の進歩に伴ない治癒率は向上してきました。
 とはいっても、がんの種類、進行度、全身状態や年齢などによって生存率は影響を受けます。表に乳がん、子宮がん、胃がん、大腸がん、肺がんの5年生存率を示しました。
 5年生存率とは、がんの手術(治療)をしてから5年の間に再発することがなかった場合をがんは治癒したと考えます。そこで、5年間亡くなることなく過ごした人の割合を5年生存率として表します。
 それぞれの「がん」について5年生存率を見てみると、ステージ1では、肺がんを除く4つのがんでは、90%以上の生存率がりますが、ステージ2から3、4と進むにつれて生存率が下がっていることがわかります。肺がんでも、ステージ1は約80%野生存率ですが、ステージ4では、わずか3.7%にすぎなくなります。
 ステージとは、「がん」の病気分類ともいい、がんの大きさや他の臓器への広がり方でがんの進行の程度を判定するための基準のことです。病気分類は、それぞれの「がん」によって決められています。早期がんという言葉がありますが、これはすべての「がん」に共通して比較的大きさが小さく、周囲の臓器への広がりやリンパ節など他の臓器への転移がなく、治療により治りうるがんと定義されます。
 つまり、がんは早期のうちに見つけることによって治すことのできる病気であるということです。


2.早期発見のために

 がんを早期に発見するためには、検診を受けることが大切です。多くの「がん」では何らかの自覚症状がある場合には、すでに進行している確立が高くなります。つまり、自覚症状に関係なく、検診を受けて、早期のがんがないか確認しておく必要があるというわけです。


3.何歳になったら検診を受けなければならないの?

 それぞれの「がん」には、好発年齢といってかかりやすい年齢があります。
 それぞれの好発年齢に達する少し前から定期的に健診を受けるようにしましょう。


4.検診はどこで受けられるの?

市町村が行うがん検診や医療機関で行う人間ドックで受けることができます。検診の日程や対象者、費用などは、市町村毎に異なりますので、詳しくはお住まいの市町村担当窓口にお問い合わせください。


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| ご意見 (0) | 2010.12.02, Thursday 02:06 PM |
京都府医師会社会保険研究委員会 答申
 京都府医師会 社会保険研究委員会では、平成20年6月から約2年間、16回にわたり、諮問事項である「医療における第三の道はあるのか」について検証を重ね、今般答申書の提出に至りました。本答申書は医療における諸問題について、委員各位から幅広い視点で適切な見解が示されております。

 是非、お読みいただき、混乱を極める医療現場を直視し、今後の医療の方向性等について考えていただきたいと思います。ここに本答申の「まとめ」部分を掲載させていただきました。委員会委員各位の考えが集約されておりますので、答申本体をお読みいただくに当たりご参照いただければ幸甚に存じます。

※社会保険研究委員会 答申全文はこちら→http://www.kyoto.med.or.jp/committees_report/pdf/2010_03-syaho.pdf


まとめ
 平成21年8月30日(日)に実施された第45回衆議院議員総選挙において示された日本国民の意思は、近年進んだ格差社会に対する本質的な是正を求めるものであった。崩れつつある国民皆保険制度を再生させ、進展する医療崩壊をくい止め、国民が安心して受療できる医療制度を再生することが求められている。しかし、900兆円にも上る国と地方の債務を抱える我が国において財源のことを抜きにして過ぎ去った過去へと単純に回帰することは許されない。ここに、戦後の経済成長を基盤とした国民皆保険制度に基づきながらも崩壊の危機にある現在の我が国の医療と2007年時点で4,566万人にも及ぶ無医療保険者を生んだ米国1)のような市場原理主義に立脚した医療の狭間で、「医療における第三の道はあるのか」を模索することの必要性が存在している。

 1997年5月2日から2007年6月27日まで約10年間、英国首相を務めたトニー・ブレアの政策が「第三の道」であったことは記憶に新しい。その「第三の道」とは、旧式の社会民主主義と新自由主義という二つの道を克服する道という意味であった2)。この英国ブレア政権においても行き過ぎた新自由主義によって制度疲労が認められたNational Health Serviceという国営医療の再建が模索された。すなわち、医療費は1997年の536億ポンドから2006年の1090億ポンドと倍増させ、その財源内訳としては政府分が1997年の450億ポンド(84.0%)から2006年の951億ポンド(87.3%)まで増加し、民間分は1997年の86億ポンド(16.0%)から2006年の139億ポンド(12.7%)となり割合ではむしろ減少した1)。他方で、医療サービス提供のあり方については、2003年に「結果に基づく支払方式」が導入され、増加する医療ニーズに対する効率化と生産性向上が図られている1)。特に、The National Institute for Clinical Excellence and Commission for Health Improvement(NICE)が設置され、科学的エビデンスに基づく医療の遂行が指導されることになった1)。加えて、最重要政策には教育が位置づけられたこと、そして、平等とは誰をも排除しないことであるという新たな平等の定義が生み出された2)。このことも参考にすれば、「医療における第三の道はあるのか」という問いに対しては「ある」という回答が導き出されると考える。

 すなわち、「医療費亡国論」3)ではなく、「医療立国論」4)といった狭い範囲にとどまるものでもなく、「社会保障立国論」の中に答えはある。例えば、市場原理主義に立脚した医療として批判に晒される米国においてさえ、医療費全体を抑制する政策はこれまでとられてこなかった1)。もちろん、医療費が膨張することが米国企業の従業員の医療保障コスト高を招き、国際競争力低下につながるという懸念は存在してきた。そんな米国における医療の無保険者の大部分は実は現役労働者世代におけるものであり、65歳以上の高齢者の98.1%はメディケアまたはメディケイドという公的保険でカバーされており、高齢者に対するセーフティネットは一定存在している1)。このような米国において、医療こそは米国経済の成長のエンジンであり、総合的に考えれば医療費増加はマクロ経済にとってプラスと考えられている1)。ただ、このことが高額な医療費を結果としてもたらし、民間保険会社の医療保険への加入の際の負担の多寡に応じたサービスしか提供されない実態と、HMO(Health Maintenance Organization)におけるゲート・キーパーによる受療抑制を常態化せしめるといった米国民にとって厳しい医療環境の原因となっている。米国の近年の医療の動向を見てみると、1980年代から新薬の登場や外来手術の普及、治療技術の進歩によって入院日数が短縮され、医療費収入の減少がもたらされ、病院単独経営では経済的に成り立たなくなったことに対する処方箋として、健康診断、予防、急性期治療、亜急性期治療、リハビリ、介護、在宅ケアに到るまでの地域住民が必要とするすべてのヘルスサービスを包括したIntegrated Healthcare Network(IHN)が非営利民間病院を中心に提供されるようになり、現在では公的病院にまで広がってきている1)。このIHNという考え方は前述の英国でも、先進国のカナダやオーストラリアでも広がりをみせており1)、医療だけでなく介護も含まれている。そして、これを基としてさらに障害者福祉等福祉全般まで含めた新たな枠組みを構成すれば、「社会保障立国論」の基礎とすることができると考える。

 これらの現状を踏まえた我が国における「医療における第三の道」は以下のように考えられる。

(1)まず、医療をめぐる枠組みとして、国民の立場から見れば、医療サービスに対する負担と医療サービスの受益という構造の均衡が必要である。国の立場から言えば、医療費の財源と医療サービスの提供費用の均衡が必要である。もちろん、前提として我が国の優れた医療制度である国民皆保険制度は守るべきである。国民皆保険制度は国民の誰をも排除しないという意味で英国のブレア政権が求めた新たな平等の定義2)に適った制度であるからである。そのために、国全体の歳入と歳出のバランスをとる中で、地域医療崩壊の根本原因となった医療費抑制政策を排し、必要な医療費財源を獲得し、医療へ投入するべきである。国民の我が国の医療費が高いという間違った認識5)を正し、国民全体が連帯の新たなる哲学6)を共有する必要がある。高度経済成長の時代であれば、医療費の増大に国として、国民として対応できたが、もはや高度経済成長時代の再来を望めない現状を冷静に認識し、現状の医療を含めた福祉の環境が低福祉・低負担か中福祉・低負担であるかの議論はあるにしても、少なくとも現状の医療レベルを守ろうとすれば、応分の国民負担を求める必要がある。もちろん、中福祉・中負担で良いのか、北欧諸国のような高福祉・高負担が良いのか更なる国民的論議が必要である。この時に忘れてならないのは、国民生活を守るために国民の健康権を確保することに医療の目的があるということである。デフレ不況下で税収の確保が難しく、他の財政支出との競合の中で相対的に財源をどう配分するのかという時に、国民の健康を絶対的な価値として位置づけ、医療への支出を優先するのか、それとも他の財政支出に健康以上の価値を位置づけるのかということである。国民がお金を使わないのも、老後の生活展望が不安であるからであり、旧社会保険庁の犯した年金不信を払拭する明確で明示的な唱道が国に求められる。そういう意味でも政策立案者でもある政治家に求められる責任はすこぶる大きく、政治の説明責任が求められている。負担の方法についても保険なのか税なのかという論議も存在している。現状が保険とは言いながら、税も投入されている訳であり、国や自治体に依存する性癖の強い国民性を考えると保険という共助システムを残しておくことは国民的連帯の観点から一定必要なのではないかと考える。また、国民的連帯を求めるためには、医師集団のみが医療費増加の恩恵を受けるのではなく、看護師等のコメディカルや事務職を含めた医療に関わる人々全てがその恩恵を受けるような制度設計が肝要である。すなわち、医師だけでなく医師以外の職種の雇用も増えることが必要である。このようにして医療界が安定することは医療を受療する国民の利益に直結することは自明の理である。他方で、現在の医療構造の中での非効率な部分や、そもそも医療として実施されているものの、その遂行に異論が存在しているターミナルケアへの医療費の過度の投入の是正等も必要である。在宅医療の推進が叫ばれてきたが、国民のほとんどの死亡場所が病院である現状からして国民が近親者を看取る場所として病院を好んで選んでいるにしても、ターミナルケアのあるべき姿について医療界は国民との間できちんとした論議をすべきである。

(2)そして、大きな枠組みの中で、崩壊しつつある地域医療提供体制の再構築が急務であることを鑑み、地域の現場からの再構築を試みることが必要である。地域の現場の個々の事象から、事象間の本質的な結合関係(因果関係)を推論し、結論として一般的原理を導く帰納法的に医療体制を考察していくことが肝要である。これまでの我が国のガバナンスの歴史を振り返ると、国においてトップダウン的に制度構築がなされ、全国津々浦々に普遍化されてきたが、そのようないわば演繹的方法論では異なる地域事情のために不適合を起こし、消化不良のため換骨奪胎化され、上手く機能してこなかったのではないかとの評価もあり得る。地域から考える医療の道こそが国民的合意を形成することが可能であり、我が国の「医療における第三の道」を拓いていくと考える。この中で、今一番大変な状況にある、いわば崩壊しつつある地域医療提供体制の中核を占める公的病院、特に自治体病院の改革が急務である。これまで、多くの自治体に金太郎飴のごとき総合病院が配置されてきたが、地理的な非都市圏における採算の取りにくい地域医療として、また都市圏や非都市圏といった地理的条件に関わらず非採算分野である小児科や救急等について民間病院ではできないことを補足してきたという点では大きな意味があったと言える。しかし、右肩上がりの経済成長が終わった後も、近隣地域との整合性を考慮しないまま、あまりに無節操に医療供給体制を拡大してきたことは問題がないとは言えない。財政力のない現在の我が国の地方自治体においては、現在設定されている二次医療圏とは別に新しい広域医療圏単位で疾病の発生率や有病率、更には鉄道や道路という医療へのアクセス性も考慮して、近接した小地域へ重複した医療資源を投入することは避けるという科学に立脚した医療資源の最適配分のガバナンスを行うべきである。このために、地域という単位(広域医療圏単位)の広さと人口規模が医療にとっても至適規模であり、住民の生活ともできるだけ一致した生活圏の下に集約化できるように見直すことが必要である。このことは、魅力ある地域づくりの根本的な論議を要求することであり、立ち去り型サボタージュ7)と呼ばれる過疎地域の自治体病院からの都会の医療機関への医師の異動への本質的な対応ともなるはずである。他方で、すべてのヘルスサービスを包括したIHN1)を実施するために、また、現状の二次医療圏よりも広域化するであろう広域医療圏に対する地域住民不安をなくすためにも、医療提供者はもっと積極的に保健(予防医療)に関わることが可能なようにシステムを変えていく必要がある。もちろん、現在でも地域の医師会レベルでの市町村事業-予防接種、健診・検診、介護事業-への関与もあり、病院における人間ドックも実施されているが、我が国は医療(病院と診療所)と保健(保健所・保健センター等行政)が乖離した制度であると言わざるを得ない。管理的仕事は行政機関に任せるにしても、健診・検診等の予防医療や介護といった個人の一人ひとりの健康管理に関わる仕事は、医療の中で主体的に実施することができるようにシステムが変更されるべきである。その中で、医師は保健師、看護師、栄養士、作業療法士、理学療法士等の専門職と共同して、医療と保健と介護の質の担保を図る中核となるべきである。このことは、自治体病院に限らず、民間病院や開業医の診療所においても、同等に位置づけられるべきものであり、この医療と保健と介護の一体化は、IHNの方向性とも一致するものである。

(3)何をおいても、わが国の医療の現状に対する正しい理解を広め、以上の様な新しい方向性について、国民的合意の中で進めることが肝要である。そのためには、診察室や手術場という閉鎖空間で行われている医療について、開示できるものはきちんと開示して、国民の理解が得られるようにしなければならない。医療は、提供者である医師・医療機関と受療者である患者との間で情報の非対称性があり、圧倒的に提供者が豊富で詳細な 情報を保有しているので、受療者がともすれば不利な状況が作られやすいというのは事実である。医療もその中で費用が発生し、その費用負担に保険料や税金だけでなく受療者の直接の支払いも発生するので、近年ではサービス業として位置づけ、「患者様」という言葉が一部の医療機関で使用されている。しかし、これは行き過ぎた市場原理主義に基づく考え方であり、逆にモンスター・ペイシェントの発生を後押しすることの一因となっている。医師は医学という科学を基礎として、あくまでも科学的に、理性的に社会と向き合うべきである。現在の卒前・卒後の医学教育が少ない医学部教員・研修指定病院の指導医によって担われているという非常に貧弱な教育環境を改革し、医師だけでなく医学の境界領域も含めて他分野の教員・指導者も増員し、医学生の時期から80歳代までの医師のライフサイクルに対する長期的・縦断的・計画的な教育への投資を行い、医師の持てる知識と経験に裏打ちされた技量を有効に活かすようにしていくべきである。他方で、医師個人は自己研鑽と生涯教育を受けることによって患者にとっての最善の医療を提供しなければならない。そして、難しい最新の医学・医療を解り易く説明する説明責任を果たすことができるように努力すると同時に自ら医療の背景にある様々の情報を開示し、医師集団(医育機関・医師会)として医学部以外の識者や医学界以外の第三者の参画を得て科学に基づいた制度設計・医療政策を進め、オープンな論議を経て、国民と共有しながら変革を進めていくことである。そのために、医師が単に病院や診療所の診察室の中で患者に対応するだけでなく、国民と同じ生活者として地域の中で顔の見える人間として、人と人との繋がりの中で信頼に足る確固たる立場を確立することが必要である。科学的な原理・原則をかたくなに守りながらも、平易に優しく語る平成の「赤ひげ」に一人ひとりの医師が、そして集団としての医師会がなっていかなければならない。

 以上のように、我が国が目指す負担と受益という枠組みの方向性を明らかにし、地域の現場から、患者・地域住民の思いを科学して、国民の理解を得ながら積み上げるようにして、国民皆保険に基づく予防から診断、治療、リハビリテーション、介護まで、切れ目のない医療を再構築していくことが「医療における第三の道」である。これは、経済不況に陥る前の昭和の時代の古い我が国の医療体制でもなく、市場原理主義に立脚した医療体制でもない、新たな第三の道である。

参考文献
1)松山幸弘、地域医療提供体制改革(IHN化)の国際比較、Economic Review 2009.1、26-44.
2)アンソニー・ギデンズ著、佐和隆光訳、第三の道-効率と公正の新たな同盟-、日本経済新聞社、1999.
3)吉村仁、医療費をめぐる情勢と対応に関する私の考え方、社会保険旬報、1424、12-14、1983.
4)大村昭人、医療立国論、日刊工業新聞、2007.
5)西村周三、医療と福祉の経済システム、ちくま新書、1997.
6)ピエール・ロザンヴァロン著、北垣徹訳、連帯の新たなる哲学-福祉国家再考-、勁草書房、2006.
7)小松秀樹、医療崩壊-「立ち去り型サボタージュ」とは何か-、朝日新聞社、2006.




| ご意見 (0) | 2010.05.07, Friday 11:03 AM |
日本医師会会長候補マニフェストの裏付けとしての京都府医師会の見解
京都府医師会の見解
~ 森 洋一 日本医師会会長候補マニフェストの裏付け ~


各 位

此のたび日本医師会会長選挙に京都府医師会会長の森洋一が立候補いたしております。
各方面からいただいておりますご疑問やご意見にお答えし、あわせて選挙マニフェストに網羅いたしました方針等について、日頃から森会長指導のもとで取りまとめてまいりました京都府医師会の考え方をお知らせさせていただきます。
厳しいご指摘やご意見をいただきますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

I: 総務部見解
 1)「政治に左右されない日医に」
 このスローガンに対して、政権への交渉力に疑問をいただいております。それについての本会の見解は以下のとおりです。

 民主党はその政権戦略として以下の二つの方法を取っている。一つは、選挙スローガンであった「国民の生活第一」を具現化する政策を政府において実行していくことで国民の支持を得ることであり、もう一つは党幹事長室を中心に旧政権与党であった自民党的手法、即ち自民党支持団体を民主党支持に転換させることである。

 唐沢日医会長が述懐されているように旧政権において与党の自民党との関係を密にする努力をし、成果をあげてきたがそれでも診療報酬のネットプラス改定は実現しなかった。今回の改定においても幹事長室の一定の関与はあったのであろうが実質はほとんど0%改定になった。その理由は明白であり、医療崩壊の解消のために必要な大幅なプラス改定の前に立ちはだかっているのは国家財政の壁である。

 我々は今回の政権交代の最大の意義は、民主党が従来から主張してきた「国家財政の見直し、透明化、組み換え」にあると理解している。このことを徹底して行い医療費の増額に必要な財源を確保することが先ず必要である。更に、恐らくそれでも不足する医療・社会保障の充実のために必要な国民負担の増加について、このことを徹底して行なうことで国家財政の運用に対する国民の信頼を取り戻しつつ理解を得ることも必要になる。我々、医療・社会保障の充実を求める立場から言えば、これが現政権の最大のミッションである。

 現政権の中枢には、前原国土交通大臣、福山外務副大臣、山井厚生労働省政務官、松井官房副長官など京都府選出の国会議員が多い。我々はこれらの国会議員と8年前から、当時の森理事(現会長)の主導の下で定期的に懇談し議論を重ねて来た。かつては、現財務大臣の菅氏や国家戦略室担当大臣の仙石氏、厚労省政務官の足立氏もこの議論に加わられたこともある。

 我々がこのような議論の繰り返しから学んだことは、此の党はしっかりと検討された意見に対しては常に耳を傾ける用意があるということであり、議論の結果、理解し納得したものについてはそれをそれぞれの政策論にとりあげていくということである。擦り寄りやもたれかかりは通用しない。

 我々は、常にこのような意見の提出と議論の展開を積極的に政権に行なっていく用意がある。その為の太いパイプも持っているということを明言したい。


 2)政権交代、民主党のマニフェスト(京都医報 平成21年10月1日号より)
 「自民党に対する大いなる不満と民主党に対する不安」の選択ともいわれた今回の衆議院選挙は,終わってみれば民主党の大勝でした。郵政民営化という国民にはわかりにくい争点を掲げて4年前の衆院選を自民圧勝に導いた小泉首相が,自らの美学なのかそれとも今日あるを独特の感で察知したためか,その1年後に退任してから,参院選敗北の後のねじれ国会の運営をストレスに感じて体調を崩し政権を投げ出した安倍首相,「貴方とは違うんです」と与党内の不人気を「客観的に」判断して政権を投げ出した福田首相,漢字もろくに読めずに決断力の不足と軽挙妄言をくりかえした麻生首相,そして衆院選直前の党内のごたごたなど,国民に痛みを強いた政策の後に国民に向き合わないこれだけの事象がくりかえされれば,不満が不安をはるかに上回る結果になったことは当然のように思えます。勝者の圧勝傾向は小選挙区制につきものと言われますが,比例区を併施している現在の選挙制度の中で,両党の総獲得票数の差が示すものは,決してそれだけではなく国民の間にある閉塞感が本当に深刻であることを示していると理解しなければなりません。

 そして,政権が交代しました。

 マニフェスト選挙が言われて久しい今日においても,日本ではまだ本当の意味でマニフェスト選挙は定着していないのではないでしょうか。今回の結果も,民主党マニフェストへの積極的期待というよりは,自公政権への不満の方がその大きな要因であったと考えるのが妥当ではないかと思います。しかし,いずれにしても政権は交代し今後の民主党による政権運営の基盤は今回のマニフェストになります。選挙以前から指摘されているように民主党のマニフェストには様々の問題点は確かにあります。医療関連についても本号「保険医療部通信」に掲載した民主党マニフェストの詳細版にも見られるとおり,行程表や財源処置の明らかでないものから,かつて我々の指摘によって民主党政調として党の見解ではないと否定されたようなものまでが含まれています。一般に例えれば頻繁に政権交代の起こる米国では新政権とマスコミの関係は新政権発足後の100 日間を俗にハネムーンと称し強い批判は控えて新政権のお手並みを見守るということが通例のようですが,現時点で我々が新政権を見守るとすればそれはたった一つの点においてであろうと思います。

 小泉政権とそれ以後の自公政権の下で,日本の医療・介護等の社会保障は大きく後退し弱体化しました。その回復を求める国民の声が今回の選挙結果であるとすれば,我々が従来から主張してきたように新政権はこれを回復させなければなりません。その観点からすると,民主党の「政権交代」の根幹である「国家予算の見直し,透明化,配分の変更」という政策論が最も重要であると考えます。

 そう考える理由は幾つかあります。
 まず第一に,前政権の下では社会保障費は国家経済の負担としてのみとらえられ,国家予算の均衡化を省是とする財務省の主導の下で「社会保障費の伸びの年間2200 億円削減」政策に代表される抑制政策が採られて来ました。国民に対しては日本の累積赤字が800 兆円とも900 兆円とも喧伝され,国民の理解を求めるような政府の姿勢が続きました。多くの経済識者が指摘するように,一方では,日本の国家のいろいろな意味での資産は約700兆円ともいわれ,純粋の負債額は200 兆円規模であり,先進諸外国間でとくに突出するものではありません。しかも,米国などとは異なり,日本の国債はほとんどが日本国民によって購入されています。もちろん,国家の赤字国債の発行高の増大や年次予算の赤字の累積は日本経済に対する国際評価などの面や従来から指摘されている「次世代への借金の先送り」というような国内事情から見ても好ましいことではなく,是正の必要があることは前政権の時から言われているとおりです。そうであるからこそ,この「国家予算の見直し,透明化,組み替え」が重要なのであり,そのような政策運用が適正に行われれば,日本経済の観点から見ても,国家予算としてこれほどの社会保障費の削減を続けなければならない理由はないのではないかと考えられます。

 次に,医療・介護などの社会保障分野は,9月15 日号の森府医会長見解にも述べられているとおり,他の産業分野に比べて高い雇用促進効果と経済波及効果をもっていることが平成20 年度の厚生労働白書にも明らかにされています。米国発の市場原理主義経済がグローバリズムの名の下に世界を席巻し,サブプライムローンの破綻によって多くの国の経済に多大の影響を与えました。そのような金融商品の購入額という点では日本は先進諸外国に比べて低く,日本における破綻の影響は少ないという当初の政府の見解にもかかわらず,GDP の落ち込みが先進諸外国間で最大になるなど,日本は実際には最大の影響を受けています。その理由は明らかで,諸外国にくらべ突出して外需依存性の高い日本の経済構造が,諸外国の経済事情の悪化による輸入の極端な減少の結果として最大の影響を必然的に受けたということになります。BRICSに代表される諸国の経済の伸張に伴う原材料価格の高騰や人件費格差による商品価格の格差など,今後の日本経済がこれまでのように外需依存型を突出させていくことは不可能であり,以前から指摘されて来た内需依存型へのシフトを現実の問題として模索しなければなりません。社会保障分野の強化は,このような内需拡大の大きな一つの手段であることを指摘しなければなりません。

 三番目の理由は,国民の意識です。日本の個人貯蓄が先進国間でも飛び抜けて高く,その多くの部分が現在の高齢者層に集中しているという現象は何を意味しているのでしょうか。
 退職後の自らの生活への不安が恐らくその最大の要因なのでしょうが,それはとりもなおさず現在の日本の社会保障体制に対する不安であると同時に,政府の国家予算の執行に対する不安と不信任の意識によるものと言わざるを得ません。更に現在の若年就労者は,小泉政権以後の政策によって,大企業のキャッシュフローが過去最大になる一方で被用者の年間所得は減少するというような状況に置かれ,その中で少子高齢化による年金・医療保険・介護保険の負担が増大し将来に備えた貯蓄さえ行えない状態に置かれています。この状態のままで,これらの人々の政府に対する信頼は醸成できません。

 「国家予算を見直し,透明化し,組み替える」という作業は,ここに述べたような理由によって,日本の経済構造を変え,国民に将来の安心と安全を担保し,日本を確たる社会保障国家に導くためには決して避けて通れない道筋であると思います。このような作業によって国家の予算運営に対する国民の信頼を取り戻し,社会保障の充実によって将来の国民生活の安心と安全が実感できる政治が望まれます。少子高齢化の進む日本では,これらの国家予算の整理を行っても社会保障財源は決定的に不足するはずです。社会保障を充実させようとすれば,今盛んに議論されているように,消費税率の引き上げや保険料の引き上げなど何らかの財政改善処置はいくら国家予算を見直し透明化し組み替えてもいずれ近い将来に必要になると考えなければなりません。これまでの日本では,細川政権の崩壊を始めとして,その後の自民党政権においても消費税の引き上げは常に国民の支持を得られませんでした。国民が国家の財政運用を信頼し,税を取られるという意識とそれによる社会保障の給付,即ち,「負担と給付」という認識から,税を預けるという意識と給付される社会保障への安心,即ち,「預託と給付」という認識に変わることが社会保障国家日本の確立のための第一歩として必要不可欠なことであると考えます。

 今後,毎年行われていく国家予算の編成を,100 日というような短いスパンではなく,長期にわたって我々は注視していかなければなりません。



Ⅱ: 保険医療部見解
 1)「医療の量と質」
 日本の国民皆保険制度は、既存の企業健保に加えて市町村国保や中小企業向けの政管健保を新たに創設することにより発足した。第二次世界大戦の終戦後16年を経て始まったこの制度の最大の目的は、国民に遍く医療を提供できる体制を確保すること、即ち、医療提供の「量」の確保にあった。敗戦から立ち上がり国家経済の立て直しと持続的な伸張を実現するための健康な労働人口の確保が国家の政策として最重要課題であったということである。一方で、その後の科学技術等の進歩と相俟って医療の技術が飛躍的に進歩し、その結果として加療対象の急速な拡大がもたらす医療費の増大はその国家経済との関連において資本主義先進国共通の課題となった。その中で、我国の国民皆保険制度はその運用において図らずもWHO等から高い評価を受けるようになった。今日、我々が日本の社会保障の象徴のように捉え、その堅持を主張し続けているこの国民皆保険制度は、発足当初において「量」の確保が社会保障そのものであった時代から本質的に変化していない。だからこそ医療費亡国論が語られ、経済の規模に合わせた医療費の総枠管理が語られて来た。

 そしてこの間に大きく発達した新規の医療技術について、我国の保険制度における対価の評価は不当に低く抑えられその結果が対GDP比で先進国中最低の総医療費という現象を生んでいる。医療技術、即ち、医療の「質」の評価という視点をあまりにもないがしろにし、その「質」の担保を殆ど医師の使命感に委ねてきたのが今日の日本の診療報酬体系の姿である。随所に見られる物と技術の包括はその最たるものであるが、このような評価のあり方が病院の経営危機や勤務医の疲弊を招いている。今季の改定においては中医協で外保連試案が提示され、これに基づいて外科手術料の引き上げが行われることになった。「質」の評価への道を開く第一歩として期待したい。一方で、先進他国に比べて早いスピードで少子高齢化が進む我国においては、これらの先進医療技術ばかりではなく、診療所が担当するような通常の医療についても必然的にそのニーズが増えていく。これらの医療は単価は低いが利用頻度が高いことによって総額としての医療費は此の部分でも増大する。このような医療の「量」のデマンドの増加と先進医療技術の評価がどのように診療報酬体系の中で均衡するべきなのかが今後の議論の最重要課題になると考えられる。

 いずれにしても、この「質」の適正な評価と増大する「量」へのデマンドを満たすためには現在の日本の総医療費はあまりにも不足している。医療費亡国論が書かれてから24年、恐らくその時から始まるべきであった国民負担と社会保障全般のあり方や、医療給付のあり方としての保険者統合論、そして真の意味での混合診療論などが今早急に議論されなければならない。そして、この「量」と「質」の問題は、翻って考えれば日本医師会のあり方の問題でもあるということを最後に付記する。日本の医師の60%以上を組織する団体として、日医はいわばその「量」によって医療団体としての代表性を主張して来た。しかし、今日、勤務医の多くが、そして国民が日医を医療の代表団体として必ずしも評価しない背景には、今日までの日医の活動が「質」の担保と向上という点において評価されていないということがあるのではないかと考えられる。今後の日医は病院から診療所まで今広く求められている「質」の確保の議論と真摯に向き合って行かなければならない。


 2)平成22年度改定の評価
   政権交代後の民主党政権下での初めての診療報酬改定であった。以下にその特徴と内容評価を記す。

  A)全体改定率
・ 社会保障費の伸びの2200億円/年・削減政策は撤廃され、その下で全体改定率として+0,19%とプラス改定となったことは一定の評価ができる。

・ しかし、プラス財源の配分として従来からの医科:歯科:調剤=1:1:0.4が今回は1:1.2:0.3とされた。医療費とは直接関係の無い政治的判断によるもので、あるべきではなかった。

・ 医科の財源4800億円について異例の枠が設定された。その内訳は、急性期入院医療に4000億円、その他の入院医療に400億円、外来医療に400億円となっている。これらの枠の設定は厚労省と財務省の折衝の中で、事業仕分け等に基づき財務主導で行なわれた。これは明らかな中医協の権限縮小であると同時に医療を分掌分野としていない財務省の越権行為である。政治主導を掲げる民主党政権がこれほどの財務省の権限強化と理解される改定を行なったことに対しては強い抗議と批判が必要である。政権発足後わずか3ヶ月での改定作業であったため、今後二度とこのような財務主導の改定内容の決定が行なわれないように厳重な働きかけと監視が必要である。


  B)改定内容
・ 前回改定の病院支援の予算額1500億円に比較して今回は病院の入院分で4400億円の原資があった。前回改定の病院支援はその内容から明らかなようにその大半は大学病院等の大規模基幹病院に集中した。

・ 今回も急性期医療に4000億円という枠の設定がある中で、中小規模病院は急性期医療の後方支援的な役割の評価など入院医療についてはわずかな引き上げに留まっている。外来分については、200床未満の病院においては、再診料が一挙に9点引き上げられたほか、在宅療養支援診療所の機能についてもその他の条件は一切なしで支援病院としてその点数が算定可能となった。

・ 個人診療所は、眼科耳鼻科などの外来検査点数が引き下げられ、外来管理加算は実質上5分要件があった場合と同様の算定制限を課せられ更に再診料が引き下げられた。
  これらの原資は、主に救急外来、在宅医療、在宅訪問看護、などに充てられた。

 総括的にこれらを評価すれば、当初の配分枠のとおりにプラス改定の恩恵は、大規模病院>中小規模病院>個人診療所となっており、特に、病院支援といいながら中小規模病院は依然として限られたわずかな財源の振り分けしか得ていないし、一般の個人診療所はプラス改定の中で、マイナスを強いられている。今季の中医協における議論でも特に地方において基幹的役割を果たしている中小病院については別の評価方法の必要性が議論されたが充分なデータが得られず見送られた経緯がある。此の部分と診療所の外来基本診療料については今後の中医協の議論の中で集約的な議論が必要である。

 しかし、いずれの分野においてもそれぞれのプラス評価は充分ではなくこれで医療崩壊が防げるとは全く言い難い改定になった。その原因は言うまでも無く総額としての引き上げ幅の不足であり、今回の改定を医療崩壊の解消の第一歩と位置づけるのであれば、最低減3%の引き上げを3回続けて行うことによって、政権公約のとおり対GDP比で医療費を先進国水準に引き上げることが必要である。今後の改定において民主党が真の政治主導を発揮しなければならない。医療費を経済の伸びにあわせた総枠管理という考え方に象徴される財務当局の医療費に対する視点は、そもそも国民皆保険制度の発足時において最大の課題であった提供医療の量の確保、というところから今日においても一歩も出ていない。20世紀の後半に圧倒的に進歩した医療技術の評価をきわめて不当に低く設定することで低医療費を実現し、これらの医療技術即ち医療の質の担保は全て医師の使命感に委ねて来た政策が最早限界点を越えているという認識が必要である。更に他の先進国に比べて少子高齢化が進むわが国においては、先進医療ばかりではなく通常の医療の提供量へのデマンドも増加し一定の医療費増を必要とすることになる。

 今後の医療費を巡る政策と議論は、この総医療費の増額のための財源論とその財源による提供医療の量と質の配分のあり方が最も重要となると考えられる。



Ⅲ: 情報化に関する見解
 1)京都府医師会のIT化に関連する活動のご紹介
  A)総論
 京都府医師会(府医)の情報・企画・広報委員会においてはこの4年間、前・油谷会長そして現・森会長と引き継がれた“開かれた医師会”の具現化のため、また森会長の強い要望である“執行部と一般会員双方向性の情報伝達促進”を目的として活発な議論と提案がなされ、府医ホームページ内での講演会等の動画配信、庶務担当理事連絡協議会等における遠方地区医師会参加のための日本医師会TV会議システムの導入、ORCA日本医師会標準レセプトソフト普及推進、会員メーリングリストの運用開始、府市民にもすべて公開する会員ページを含めた府医ホームページのリニューアル等を行ってきた。また平成21年9月からは会員報告による「インフルエンザ発生状況マッピングシステム」の稼動開始、平成22年1月からは府医ホームページにおいて国民ならびに全国都道府県医師会に府医の考え方を発信する「ブログ」も開始したところである。

  B)ORCA日レセについて
 ORCA日医標準レセプトソフト(ORCA日レセ)は、日本医師会で開発されたレセプトコンピュータシステムソフトで、これまでの市販の大手レセプトコンピュータの約1/3の価格で導入可能であり、その後の買い替えも不要で医療機関の事業コストを大幅に削減することが可能である。4年前から府医においてこの導入・普及を勧め、平成18年1月においては京都府内では41の医療機関で導入されていたが、4年後の平成22年1月には266医療機関で稼動している。全国的にも現在ほぼ1万件の医療機関で導入されており、ORCA日レセは医科レセコン業界において革新を起こしたことは間違いない。

  C)メーリングリストの活用
 会員メーリングリストは現在、勤務医師を含め府医会員の約1,000名がこれを利用して日々情報交換・情報共有が行なわれている。ここでは一般会員間だけでなく執行部と一般会員間の直接の情報伝達・交換も行われており、府医会長、副会長を含め執行部理事と一般会員の垣根を取り払うという効果が認められている。

 また、平成21年に新型インフルエンザが発生した際には、この会員メーリングリストにおける情報交換・情報共有が日常診療において、非常に有意に働いたため、ここから発展して会員が随時これを報告することでインフルエンザ発生状況をリアルタイムに表示可能なマッピングシステムを平成21年9月、全国の都道府県医師会に先駆けて開発・稼動開始し、現在に至っている。

 このほか、府医理事会におけるメーリングリストも稼働させており、毎週木曜午後に約3時間にわたり開催される理事会での闊達な議論のほか、府医役員メーリングリストにおいて日常的に情報伝達・情報共有・意思統一の場として活用されている。


 2)国の進める医療のIT化への京都府医師会の考え方
  A)レセプト(診療報酬明細書)“電算化”への取り組み
 平成18年4月の厚生労働省令第111号「レセプトオンライン請求義務化省令」は、“医療保険事務全体の効率化”を目的として、期限を限定して医療機関の提出する診療報酬明細書(レセプト)を電子化し、なおかつこれを特別のオンライン回線を使用して提出することを義務化させ、これに対応できない手書きのレセプト提出医療機関潰しを図るという、とんでもない省令であった。多くの現場の医療機関からの声や全国都道府県医師会からの反発により厚労省は平成21年11月の厚生労働省令第151号で、これを実質“手上げ方式”に是正する省令改正を行った。

 一部報道では、この省令改正により、医療のIT化、効率化が遅れるとの見出しが踊ったが、これは大きな誤解である。「レセプトオンライン請求義務化省令」に対して、多くの医療関係者が反対したのは、「レセプトオンライン請求」というレセプトの送達方法をオンラインのみに限定する点である。レセプト情報が電子化されていれば、送達方法をオンラインのみに限定しなくても、医療のIT化は成り立つのである。また、必ずしも全ての医療機関のレセプト情報を電子化する必要もない。過疎地の診療所や、これまで地域住民と密接な信頼関係を築き、その健康を支えてきた高齢医師などが、費用面や人員面でレセプトの電子化に対応できないがために診療をやめざるを得ない状況に追い込まれるなど、医療のあり方としては本末転倒である。これら小規模の手書きレセプト提出診療所は、医療機関ベースで全医療機関に占める割合では10%程度であるが、これらの診療所が提出するレセプト枚数は少なく、レセプト枚数ベースで見れば全医療機関の提出するレセプトの2~3%を占めるにすぎない(http://www.ssk.or.jp/rezept/hukyu.html)。よって小規模手書きレセプト提出診療所のレセプト情報が電子化されないことで、医療情報のデータベース化(分析)に与える影響は皆無といえるほど微小であり、これらの医療機関が廃止に追い込まれることで地域住民に与える影響の方が甚大である。

 府医はレセプトの電子化移行には決して反対を唱えているものではない。これは現場の医療機関の定期的なレセコン買い替え時に無理なく導入され、将来的にはこの電子化されたレセプトが増加するのは時代の趨勢と考えており、これらを集積して医師会としても診療側として、国の医療財政施策の判断指標に活用すべきとの考え方である。ただ今後は、保険者や国に集積されるレセプトデータの取扱い、このデータベースの利用につき、国民のレセプトを提出する診療側として監視してゆく必要があると考える。レセプトの内容は患者・国民の高レベルの個人情報であり、これを作成するのは医療機関である。国民の側に立ったレセプト活用について常に注視し、必要な際には医師会として発言し関与してゆく責務があると考えている。

 なお、日本医師会ではORCAプロジェクトの目的のひとつとして患者個人情報を含まない日本医師会独自のデータベース構築のために、会員の同意を得て、前述したORCA日レセユーザーから匿名のレセプト情報を集積する定点調査観測事業を開始している。これは国が提供するレセプト情報(ナショナルデータベース)に診療側として独自のデータで対峙し、医療側から公正な医療政策を提言する基礎データとして国の進める医療費適正化政策に対抗する非常に重要な武器となる。この定点調査観測事業をさらに強化するためにも各医療機関で府医の勧める日レセが導入され、このユーザーが拡大してゆくことが必要と考えている。

  B)社会保障カード(仮称)への対応
 国民にとって非常に重要な問題である年金手帳に医療保険証と介護保険証を統合した「社会保障ICカード」は前自公政権ではほとんど国民への周知や議論もされないままに準備が着々と進行し、全国数箇所で実証実験も始まりかけていた。しかし政権交代により現政権下では事業仕分け等によりこれは一旦中断され、「所得の把握を確実に行うための税と社会保障制度共通の番号制度」としての議論が国民の前にもオープン化されつつある。今後、この分野でもIT化導入が検討される可能性が高く、強い関心を持って注目してゆく。



Ⅳ: 医療安全に関する見解(事故調査制度等のあり方)
 政権交代によって、厚生労働省の「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」が、そのまま国会で審議される可能性はなくなった。しかしながら不幸にして起こった医療事故の原因を追及するための第三者機関の設立は、医学の進歩のため、医療安全のために絶対に必要である。 現在、わが国においては、医療事故が発生した場合、医療機関からの届出もしくは患者ならびにその家族からの訴えにより、刑事検察が捜査を行い、その結果によって刑事処罰が加えられる。そして、刑事処罰に基づいて行政処分が科せられる。この一連の過程には専門家による原因究明のための分析や再発防止のための提言など、医療安全の向上に関する要素は全くない。そればかりでなく、医師が患者と共に病に立ち向かった結果、刑事訴追を受けるかもしれないという異常な事態が生じている。われわれ医師が医療現場において委縮することなく、もっとも正しいと考える医療行為を遂行できる環境を作ることが、医療崩壊を食い止めるためにも重要な課題である。
 医療安全を確保するために必要な制度とは、第一に医療が委縮へ向かわない制度であること、第二に原因の究明が明確になされ、再発防止に繋がること、第三に患者・家族だけでなく医療を受ける人が納得し、医療の信頼が維持されるものでなければならない。

 1)医療事故調査の在り方
 医療事故が起こった場合、院内調査がおろそかにされてはいけないことは、当然のことであるが、公平性、客観性を確保するためには、第三者による調査制度が必要である。調査機関は医療の専門家である医師によって構成されるべきであるが、どのように調査の透明性を確保するかは重要な課題である。そして調査の結果に基づいて再発防止策が講じられる仕組みが必要である。


 2)行政処分の在り方
 現状では司法判断の結果に基づいて行政処分が行われていたが、医療事故の責任の取り方としては、国家資格を持つ専門職としての責任を問うことが中心となるべきである。この際、刑事処分の可能性が医師のやる気を殺いで、医療崩壊に結びついたことを忘れてはいけない。すなわち、行政処分判断の明確な基準の作成と再教育を中心とした多様な処分類型が作成され、公正、公明な処分制度でなければならない。
専門家集団である医師会のプロフェッショナルオートノミーが最も発揮されなければならないと考える。


 3)患者救済
  患者救済の在り方は患者の要望に報いることである。患者の要望とは、①現状回復、②真相究明、③反省謝罪、④再発防止、⑤補償・賠償、⑥処罰といわれている。すべてをかなえることはもちろん不可能であるが、医療側と患者側の対話によって少しでも隙間を埋めることが患者の救済としてできることであり、また医療の信頼回復に貢献する。その手段としてADR(対話型)、無過失補償制度などの活用が検討されるべきである。



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【参 考】
○森洋一日本医師会会長候補オフィシャルサイト
  http://www.mori-yoichi.jp/

○森洋一日本医師会会長候補オフィシャルサイト「マニフェスト」
  http://www.mori-yoichi.jp/manifest.html

○森洋一日本医師会会長候補オフィシャルサイト「活動報告」
  http://www.mori-yoichi.jp/report.html











| ご意見 (0) | 2010.03.10, Wednesday 11:16 AM |
5分でわかる勤務医問題【京都府医師会理事:上田 朋宏】
5分でわかる勤務医問題
~地域医療の基盤である勤務医を支えるために~


京都府医師会 理事   上田 朋宏


 京都府医師会勤務医部会は平成21年12月に「勤務医・女性医師の労働環境等に関する緊急意識調査」の結果(90ページ)をまとめた。そこで、勤務医の何が問題で、医師会として何をしなければならないのか本調査から明らかとなった勤務医の生の声からわかりやすく説明したい。


1.調査結果から見えるもの
 京都府内の66病院に所属する勤務医3009名中668名(回収率22.2%)に対して無記名、自由意見も含めた選択設問(約90問)の集計である。女性医師が25%、勤務先は公的病院が42%、医療法人が28%で、常勤医77.5%だった。労働環境では、月の時間外労働が100時間以上という回答が11.8%を占め、宿直明けも連続勤務は70.7%に達し、有給休暇も半数の人が利用したくても「できない」状況であった。また、手当についても、半数が諸手当が支払われていないと回答した。この環境に80%以上の勤務医は「医師が足りない」と感じており、「不安、不満、悩み」の訴えの中には、男女とも「文書作成」の多さが第1位で、女性は「勤務と家事との両立」が2番目の悩みだった。医師として学会参加へのサポートは不十分だと約70%が実感しており、研修医への指導手当もほとんどなく、指導医の不満は大きい。

 女性医師にしぼってみると、仕事を続ける条件は「家族や上司の協力」が必要と思っているのが70%を占め、次に労働時間、病院のサポートの順に多かった。保育、託児所施設の不備を60%以上の方が訴え、休職・離職は出産・育児が原因で、復職するためには家族・病院の協力が必要と訴えていた。
最後に、京都府医師会勤務医部会の存在を知らない人が57%もあり、さらには部会の活動内容を90%の回答者が「知らない」と答えた。医師会にとっては、非常に耳の痛いご意見であるが、勤務医対策を怠ってきたことの裏返しでもあり、最も反省しなければならない点であろう。


2.勤務医の労働環境および労働条件の改善にむけての課題
 予想通り労働基準法の規定を超える100時間以上の長時間の時間外勤務が11.8%の勤務医が経験していた。この傾向は医育機関および国公立病院に多い。「残業に関する労使協定(三六協定)を結んでいないのに医師に残業させている」として労働基準監督署からの是正勧告が絶えない。しかし、勤務医はたとえ残業の上限を定められても必要な場合は患者から離れることはできない。ただ、十分な時間外手当なしに奉仕してきた(67%)わけで、非常に安価で世界一の水準を保ってきた日本の医療は勤務医の無償の奉仕の部分で成り立ってきたといっても過言ではない。このあたりは、医療事故でも大きな問題となっている技術料とリスク、それにあう報酬が規定されていないため不満が大きくなっていると思われた。医師数の不足も85%の勤務医が感じていた。労働基準法に適合する労働環境を実現するためには、もっと人的資源の投入が必要であることが明らかになった。勤務医の無償奉仕の実状の是正、改善が急務である。4月から診療報酬制度の改定がなされるが、Hospital fee とDoctor fee の両方を設定することを考えないと根本的に解決できない問題でもある。これは、米国の勤務医のように、病院の施設を借りて外来診療、手術をする個人事業主の形態に勤務医を誘導するのか(すべてではないchairmanだけ)、または、病院は入院部門だけで経営が成り立つようにするのかなど、日本独自の制度設計、将来ビジョン構築が急務である。この時必ず医療費財源論になるが、薬剤、診療材料を無償で販売している病院勤務医に、全くキャッシュバックがなくメーカーだけに利益が配分される産業構造自体にもメスをいれるべき大きな問題を内包している。


3.女性医師に特化した就業支援体制の充実
 女性医師は医師と結婚する場合が多い(31%)。就業を続けるためには、家と仕事場の理解がいると73%の女性医師は考えている。賃金は二の次だった。仕事を辞める原因のほとんどは出産・育児である。この部分のサポート体制(23%があり)、育児施設などがほとんどの病院でないところに解決の難しさがある。女性医師が休職・離職してから復職するための中間施設がなく、すぐの現場復帰であるために非常勤医師が多くなることも納得できる結果である。医師不足が叫ばれる中、女性医師が働きやすい環境を作ることが医療崩壊を防ぐ大きな手立てになることが、今回の調査で明らかになった。


4.京都府の地域医療資源再配備における医師会の役割
 地域医療ネットワークは病院と診療所と家庭を結ぶものである。しかし、今回の調査結果から注目すべきは、医師会は開業医のための営利団体で、勤務医のための医師会であるとは思えない意見が散見されたこと、勤務医部会が医師会に存在することを認知されていなかったことが挙げられる。これは、従来の勤務医部会が病院長等管理者ならびにそれに準ずる医師の連絡協議会的存在であったからである。しかし、現在の京都府医師会の運営哲学とその実践を知りえたならば、「医師会が開業医だけをみている」という考えは偏った見方であることはわかる。しかし、勤務医は、問題を感じてもその直属の上司である院長や自治体の首長がその問題意識を共有し、政府や地域行政に働きかけるぐらいのエネルギーが無い限り労働環境は変わらない。大学の変革ですら、新聞記事コラムで「墓場の引越し」に喩えられ、内部の自浄努力で改善することが極めて難しい。そこで、外部から広い視野で医療資源を統括しコーディネートできるのは医師会しかありえないといえる。

 日本医師会には最近批判も多いが、京都府医師会には少なくともそれだけの役を担う力がある。勤務医部会が、京都府全体の医療をより充実した適切な環境にするために機能するようにしていきたい。また、京都府の地域医療を俯瞰すると北部地域に医療崩壊の兆しがあると喧伝されているが、医療法に規定されているとおり京都府知事が地域医療計画策定の責任者であることを勘案すると、今こそ京都府医師会と京都府(知事) との協業により関連自治体の首長を強力に指導し、人的資源、財的資源の適切な投入を具体的に実行する時と考えられる。


5.これからの「京都府医師会」
 京都府医師会の役員は、開業医のことはもちろん、勤務医のことを同じ目線で考えている。しかも京都府のみならず日本全体の医療を見渡してことをなしている。翻っていえば、京都府・京都市の医療行政を向上させ日本医療全体に反映させていくのが、京都府医師会の責務であり、理念である。そもそも医師会は、地域・国の医療を将来にむけて安心できる体制を維持できるように専門家としての立場で意見していく集団であるべきで、開業医だけの利益集団と思われることに恥じるべきである。一方、勤務医も文句を言うだけで、受動的なサイレントマジョリティのままでは、現在の医療崩壊だけでなく自分の子供たちの将来に医療崩壊の影響が及ぶ可能性がある。

 この危機感が、単なる医師だけの危機感でなく、国民に共有できるような手立てを同時に並行して行わなければならない。これは学会が、医師会があまりに閉鎖的で国民に説明責任を果たしていなかったことも少なからず関係していると考えられる。


 日本の勤務医はがんばっている。しかし、その使命感が途絶しそうな医療環境であることは間違いない。これまで頑張ってきた医師が、頑張れば頑張るだけ、より疲弊するような悪循環を打破しなければならないが、その力は、医師会にしかない。勤務医に対する特効薬は患者さんの「ありがとうございました」の感謝の言葉である。これが疲弊する勤務医を一番勇気づけ、元気づける。この患者と医師の信頼関係を再構築するためにも医師会は勤務医をサポートする大きな力になるべきである。今こそ日本医師会に、将来にわたって日本の医療を守る医師全体の団体としての意識改革を望む。


<参考資料>
京都府医師会勤務医部会
『勤務医・女性医師の労働環境等に関する緊急意識調査(総括)』
http://www.kyoto.med.or.jp/info2/pdf/kinmui20100203.pdf


| ご意見 (4) | 2010.02.03, Wednesday 07:41 PM |
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