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事務局からの連絡

保険医療部より

療養病床について 12月1日 京都府医師会:保険医療部

1.これまでの経過
小泉前政権下, 公的医療費削減と規制緩和を目的とした医療構造改革が推し進められてきた。昨年6月に出された「骨太方針2005」においては, 財界や財務省の強い圧力を受け,社会保障に関して「日本の経済規模とその動向に留意しなければならないと同時に, 過大・不必要な伸びを具体的に厳しく抑制しなければならない」と強調された。医療費については, 伸び率管理の明記は回避されたものの, 「医療費適正化の実質的な成果を目指す政策目標を設定し, 必要な処置を講ずる」と記されたことにより, 厚労省は年末までに具体的な医療費抑制策を提案することを強いられた。その後, 9月の衆院選圧勝を追い風に, 政府・与党は12月に医療費抑制策を連ねた「医療制度改革大綱」を発表したが, この中に平均在院日数の短縮を柱とする<医療費適正化計画>を国および都道府県が策定することが盛り込まれた。次に厚労省は, 平均在院日数短縮の最大の具体策として, 療養病床を平成24年度以降は医療必要度の高い患者を対象とする病床と位置づけ, 介護報酬での評価を廃止し, 診療報酬での評価に一本化するという「療養病床の将来像」を年末の社会保障審議会介護給費部会に突然提出した。その後本案は十分な審議, 検討を経ず, 「医療制度改革関連法案」に組み込まれ, 本年6月に国会で可決された。その結果介護療養病床は平成23年度末に廃止されることが決まり, 厚労省は再編により約3000億円の医療費削減が可能と試算している。
2.療養病床の再編とは
療養病床の再編案は, 現在の医療保険適用の療養病床約25万床と介護保険適用の約13万床について, 平成23年度末で介護療養病床は廃止, 6年間で療養病床入院患者を医療の必要度の高いものに限定することにより約15万床に縮小しようというものである。医療の必要度の低い入院患者については, (1)医療保険では「介護保険移行準備病棟」,介護保険では「経過型介護療養型医療施設」など人員基準等を緩和した経過的類型を設ける, (2)病床転換に対して経済的支援を行う, (3)介護保険事業計画の参酌標準を見直すなどの支援を行い, 最終的には平成24年度に老健施設やケアハウスまた在宅等に移行させる。すでに, 在宅での受け皿整備として, 平成18年度診療報酬改定にて, 在宅療養支援診療所が創設され, 介護報酬改定では, 療養通所介護, 地域密着型サービス, 地域包括支援センターなどが創設されている。
また, 平成18年度診療報酬改定にて, 中医協の「慢性期入院の評価調査分科会」で検討されていた医療区分およびADL 区分を用いた患者分類に基く療養病棟入院基本料が, 7月から導入された。医療の必要度の低い医療区分1の報酬は30%以上の大幅な引き下げとなり, 老人保健施設の要介護1の報酬より低く設定されている。医療度の低い患者に対する退院への強力な誘導がすでに始まっている。
今後厚労省は, 療養病床の再編にあたり, 各地域の状況をふまえた受け皿づくりを計画的に整備する必要から, 療養病床アンケート調査, モデル事業などを実施し, 「地域ケア整備指針」を策定する。これを踏まえ都道府県は平成19年度中に「地域ケア整備構想」を作成する。また, 介護施設での医療提供については「介護施設等のあり方に関する委員会」で議論される。
ADL区分3 885 1344 1740
ADL区分2 764 1225*/1220
ADL区分1
  医療区分1 医療区分2 医療区分3
*認知機能障害加算
注) 検査, 投薬(腫瘍用薬および麻薬を除く), 注射(腫瘍用薬, エリスロポエチンおよび麻薬を除く), 画像診断(単純撮影に限る) および簡単な処置の費用を含む。療養病棟療養環境加算(132点〜30点) は別途算定可。また, 急性増悪等により一般病棟への転棟または転院を行った場合は, 転棟または転院前3日に限り, 出来高により算定可。
参考) 介護老人保健施設入所者(要介護1・多床室) の基本単位は781単位(1日につき)
3.療養病床再編をめぐる問題点
公的医療費を削減するためには, 患者を医療保険の範疇から介護保険や自助の範疇に追いやること, また医療へのアクセスを阻害することが最も効果的である。今回の療養病床再編は, 強引かつ計画的にそれを実行しようとするものであるが, 地域において深刻な問題を生ずることは明白である。以下にいくつかの問題点を挙げる。
(1) 「医療の必要度の低い患者」は妥当なのか?
「療養病床の将来像」において, 療養病床に入院中の患者のうち医師の対応がほとんど必要のない人が概ね5割と説明されている。その根拠は「慢性期入院医療実態調査(H17年11月中医協資料)」であるが, 実際のアンケート時の質問は『医師の指示の見直しの頻度』を問うており, これが医師による『直接医療提供頻度』という文言にすり替えられている。医師の指示が変更されなくても, 医療は継続的に行われており, 医療の必要度が低い根拠には全くなり得ない。再編議論のベースとなった資料に対する厚労省の恣意的な操作は決して許されるものではなく, 断固追及し見直しを求めるべきである。
 また, 報酬の設定に医療区分が導入されたが, これは中医協の「慢性期入院医療の包括評価調査分科会」(池上直己会長) にて検討されたものである。医療の必要度が低く介護施設等で対応可能とされる『医療区分1』の中に, 経管栄養, 喀痰吸引等を要するものも含まれている。日医の「療養病床の再編に関する緊急調査結果」において, 医療区分1の約2割に医師によるリスク管理または24時間対応が必要な医療処置が行われていることが明らかになった。また, 18年度改定において包括評価調査分科会が調査した区分毎のコストが中医協に提出されないまま, 実際のコストより過度に低い報酬が設定されたことも判明している。これらの事実から, 病院でのみ対応可能な患者が含まれる医療区分1の報酬が, 削減への誘導として意図的に過度に低く設定された結果, 必要な医療が受けることが出来ないいわゆる「医療難民」が生ずることは明白である。包括評価調査分科会にて医療区分に関する再調査が行われる予定であるが, その結果も踏まえ医療区分および診療報酬の早急な見直しを要求すべきである。
(2) 「療養病床を削減すること」は妥当なのか?
「療養病床の将来像」の中に−これまで高齢の長期入院患者に対するサービスにおいて一定の役割を果たしてきた療養病床−という記述があるように, 療養病床は, 急性期病院や在宅からの受け皿として長期療養を必要とする患者への医療提供, 在宅や施設から一時増悪に対する受け皿としての急性また亜急性期の医療提供, 身体機能回復また維持のためのリハビリテーション, 終末期医療・ケアの提供などの役割を果たしてきた。今後, 高齢者特に後期高齢者が急増する中, また急性期病院における入院期間短縮や在宅医療が拡大する状況下において, これまで療養病床の果たしてきた役割がより重要不可欠となる。また, 高齢者の病状は変化しやすく, 臨機応変に対応可能な医療体制が要求される。今療養病床を削減し医療の受け皿を減らすことは果たして妥当なのか, まず必要な医療供給体制を整備することが先決と考える。
(3) 「社会的入院」の解消は可能なのか?
厚労省は, 今回の療養病床再編を「社会的入院」解消のためという。日医の調査では「医療区分1の入院患者のうち病状が安定していて退院可と医師が判断した患者」が63.4%という結果であった。このうちの約7割が独居, 昼間独居, 老老介護などの介護力不足にて在宅での受け入れ困難, 約2割が介護施設の入所待ちという結果であった。また, 京都療養病床協会が6月に実施した入院患者・家族に対するアンケート調査では, 9割以上の患者・家族が「現在の病状, 状態で自宅介護は不可能」と回答している。これらの結果から, 再編により退院を迫られる患者の多くが, 介護上の理由で自宅への復帰は不可能と考えられる。介護環境の整った施設や住宅の整備が必要であり, それがなければ大量の「介護難民」が生じ, 劣悪な生活, 虐待, 労働力の低下などの社会問題に発展することが危惧される。
受け皿として, 老健, 特養などの介護施設が考えられるが, 特養は多くの入所待ちを抱えており, 老健に関しては構造上の問題等で療養病床からの転換が容易でないなど厚労省の思惑通りに整備が進むとは限らない。また, 新たな住まいとしての介護特定施設, 高齢者専用賃貸住宅に関しては, 要介護度の平均が4以上の療養病床入院患者を受け入れ可能な介護体制がとれるのか, また患者の自己負担増などの多くの問題を有している。さらに, 重介護者は医療の必要度が高く, 終末期医療のニーズもあり,介護施設での医療提供の見直しや新たな住まいでの医療提供の整備が必須である。
「介護施設等のあり方に関する委員会」において, 日医, 病院団体が医療の在り方を,根拠を示して提言する必要がある。
(4) 在宅医療の推進について
以下の理由により医師会による積極的な在宅医療の推進が必要と考える。
  1. 日医および京都療養病床協会の調査の結果から, 現在入院中の患者の多くは, 介護や住環境要因により, 「狭義の在宅」つまり自宅への退院は不可能であることが判明したが, 介護保険によるサービスが充実し, 適切な在宅医療が提供されれば自宅での療養が可能な患者がいる。
  2. 多様な生き方を選択する団塊世代が高齢者となり, 在宅志向が高まる可能性がある。
  3. 新たな住まい(高齢者住宅等) という「広義の在宅」に対する医療のニーズが高まる。
  4. 病床の削減や介護施設等の参酌標準が低くなる現状において, 在宅での療養期間の延伸, また, 病院・施設からの在宅復帰の受け皿としての在宅医療の整備が望まれる。
  5. 『在宅療養支援診療所』の創設など診療報酬上の評価。
  6. 「出来る限り在宅で医療を受けながら生活したい, ターミナルを迎えたい」という患者・家族の望み, 「慣れ親しんだ土地での継続的な医療を受けたい」という地域住民の望みを実現できるのは, 地域の医療機関および医師会のみであり, 使命である。主治医機能および医師会機能としての在宅医療の重要性。
在宅療養支援診療所が制度化され診療報酬での差別化が行われている。京都府において250施設(平成18年11月1日現在) が届け出ているが, どの程度実働されているかは現在不明である。24時間365日対応を求められるなどハードルの高さによって届出しながら算定しない, また, 在宅医療を実施しているにもかかわらず, 在宅療養支援診療所を届出ていない医療機関があると推測される。医師会として, 在宅療養支援診所の要件の見直しを求めると同時に, 要件をクリアしやすい環境の整備を行うことが必要である。医療連携の推進, 在宅ケア・地域ケアのための多職種連携の構築, 在宅医療の質の向上のための研修等, 医療機関のみでなく住民に対しての情報発信および在宅医療支援機能を有する窓口の設置を, 府医と地区医師会との役割分担, 関連団体との協力のもと実現しなければならない。府医師会では地域医療部地域ケア委員会にて現在検討を行っている。
4.終わりに
国の歳出削減の方針の下で, 高齢社会に対応可能な医療・介護体制を整備するという矛盾により, 多くの問題点が噴出しており, 療養病床再編もその一つである。その犠牲となるのは弱者であり, 格差が拡大し新たな社会問題を生むという悪循環に陥りつつある。医療や介護に従事するものは使命感から精一杯踏みとどまろうとしているが, 限界がある。すでに立ち去るものもあり, 地域医療・ケアが崩壊しつつある。医療, 介護は労働集約型サービスであり, ふさわしい財源が確保されなければならない。一方, 医療機関は求められる機能を考え, 果たす機能を明確にすることが要求されている。
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